DeNA編集部

2016.01.14

「給料をもらって仕事をしている自覚がないのか」 :南場連載

DeNA創業者
南場智子のDNA 私の仕事哲学  ~『不格好経営』のその後~

世界的な経営コンサルティング会社で圧倒的な成果を出し、 起業した会社をわずか9年弱で東京証券取引所1部に上場させ、 現在は遺伝子検査サービスの普及に、果敢に挑む。 さぞドライな人柄だろうと思いきや、著書で明かされた通り、素顔はチャーミング──。 当代きっての女性名経営者が、すべてのビジネスパーソンに自筆のエールを送ります。

初出:『日経ビジネスアソシエ』 2015年8月号

第1回 「給料をもらって仕事をしている自覚がないのか」

 入社1年目の社員を集め、1人ずつ自分の1年を振り返ってもらったことがあります。1人の女性社員が「こんな仕事を任されてモチベーションが上がり、その後こんなことでモチベーションが下がり...」と自身のモチベーションの変遷を発表しました。我慢して最後まで聞いていた私に「給料をもらって仕事をしている自覚がないのか」と厳しく問われ、後で泣いていたようです。

 その後その社員はまぶしいほどたくましく成長しましたが、「モチベーション」という言葉を若い人から聞くたびに違和感を覚えます。もちろん体調やパーソナルな事情で、仕事に向けてテンションを上げにくい時もあるでしょう。でもそれは口にしてはいけないことではないでしょうか。打席に入ったプロ野球の選手が、「今日はモチベーションが上がらないなぁ。打つ気が起きない...」などと言ったらプロ野球人生は終わりです。ビジネスパーソンもほかの職業も、報酬をもらっている以上、その厳しさを持つべきと考えます。これがプロフェッショナリズムの基本です。

 マネジメントとなると、もう少し現実的なアプローチが必要となります。なんだかんだ言って、モチベーションの高いチームの方が、低いチームよりも成果を出しやすいのが現実です。リーダーは、チームの士気を高めて成果を出していかなければなりません。ただ、個人に求められるスタンスとして、私はこのプロフェッショナリズムの基本をとても重視しています。



 1999年に、私は日本一のネットオークションを作ろうとDeNAを立ち上げました。ところが失策に次ぐ失策で最後発の参入となり、その後あらゆる作戦を全力で実施し他社を追いかけましたが、〝ヤフオク〟だけは超えられず、惨敗を喫したことは拙著『不格好経営』に書いた通りです。

 その後この会社が沈んでしまわないように、黒字化後はさらに発展するように、成功の確率を1%でも高めるようにと、次々と新しい事業を立ち上げました。

「よく途中で投げ出さなかったね。どうやって気持ちを強く持ち続けたのか」という質問を受けることが多いのですが、正直そんなことを言っていられる立場ではなかったです。とにかく責任を全うしなければという意識以外には何もなく、事業一つひとつに個人的な思い入れがあるとかないとかに関係なく、全力を尽くしてきました。

 このように「想い型」ではなく「責任感型」。そう自分を分類しきっていた私に転機が訪れます。ものすごい無責任退任をやらかしたのです。

 上場企業の社長が自身の健康を理由に退任したことは聞いたことがありますが、家族の病気が理由というのは聞いた記憶がありません。それぞれ何らかの個人的な事情を抱えつつ、それを表に出さずに踏ん張っていらっしゃる。そのキャパが私にはありませんでした。



 2年間現場から退いたことで得たことも失ったこともありますが、一番の大きな変化は、ヘルスケア事業に対するとてつもなく強い「想い」が芽生えたことです。

 健康なうちからリスクを予想して手を打つ社会を築こうと、復帰後まずは遺伝子検査サービス「MYCODE」を立ち上げました。

「想い」により突き動かされる事業リーダーがいいのか、冷静な責任感型がいいのか、単純な答えはないと思います。事実、この事業はまだ成功とは言えない状態です。それに私自身、以前と異なる姿勢で仕事をしているわけではなく、プロフェッショナリズムについては、これまでと同じ厳しい水準を持って仕事に臨んでいます。

 ただ、この年にして「これが私のライフワークになるのかな」と思える事業に出会えたのは幸せでした。この事業をやろうと社内で声がけをしたら、同じように強い想いを持つメンバーが次々と集まってきました。「想い」はマグネットのような働きをするのでしょうか。そして人々の健康を扱う事業をするうえで、こういった私たちの「志」は大切にしていきたいとも思っています。

 前置きが長くなりました。アソシエに連載を、と依頼された時、あれこれアドバイスするのは好きではないので、この想いのこもったMYCODE事業の立ち上げのすったもんだを綴ってみようと考えました。いろいろな主人公が登場します。読者の皆さんが置かれたそれぞれの立場から、何らかのメッセージを汲み取っていただけたら幸いです。




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