DeNA編集部

2016.06.17

交渉の王道テクニックは「百害あって一利なし」:南場連載

南場智子のDNA 私の仕事哲学
第6回 交渉の"王道テクニック"は「百害あって一利なし」

初出:『日経ビジネスアソシエ』 2016年1月号

 我が社では社会に出る前の大学生にサービス立ち上げの現実を知ってもらおうと、「げんなま」というセッションを続けています。「現場の生々しい話を全力で届けます」、という長いタイトルが「げんなま」になっただけで、オカネがもらえるわけではありません。毎回サービスをひとつ取り上げ、エンジニアと企画それぞれの中心人物が出てきて、構想からサービスの作り込み、ローンチ後の運営のすったもんだを赤裸々に語ります。

 先週は2015年9月に開始したカーシェアサービス「Anyca(エニカ)」を取り上げ、エンジニアのB場と企画のO見が登場しました。「頑張ったポイント」のひとつに東京海上日動火災保険さんとの提携の話が出てきました。そこで学生さんからの質問。「交渉のコツって何ですか?」


 こういう、何というか、学生しか聞けない、ものすごく大雑把でストレートな質問はときどき面倒だけど、どきどき面白いです。エンジニアのB場が「いやぁ、ほんと僕たち2人とも新卒4年目で、相手は一流企業の立派な大人で...僕たち若いだけでなくて格好もこれだし...その上O見が物怖じせずに『これはやりたい、これは無理』ってずけずけ言うからハラハラしました」と口火を切ると、O見がいつもののんびり調で続きます。「交渉にテクニックって必要ないんじゃないかな。お互い実現したいこと、譲れないことをストレートに伝えることが大事で」。

 太い。そして正しい。

 実は私も交渉で一番大事なポイントは「なるべく交渉しない」ってことかなと思っています。この提携で自分たちが達成したいこと、譲れないこと、困ることなど、双方が全部一度にテーブルに乗っけてしまうことが理想です。よく、のりしろを残し、譲れない線よりも上から交渉に入るべきと言う人もいます。けれどもこれをやっていると、例えば収益の分け方について、一度「ここから下は受け入れられません」と述べた後に、その下の線で妥協することになり、結局相手に「この人たちはふっかける」と見透かされ、それを前提とした探り合いに入ってしまいます。時間が浪費されるし、信頼関係は醸成されません。提携や協業の場合は、その後一緒に事業をしていくわけなので、「正直でない人たち」と思われて得をすることはひとつもないわけです。


 ほかに気をつけている点は、「すべてのステップで返事を早くする」ということと、「なるべくシンプルに」の2点でしょうか。

 返事の速さは能力の現れだと思います。一度言ったことはなかなか撤回できないので、慎重を要すというのは分かります。が、情報が整理されていて優先順位がはっきりしている会社、つまり優秀な会社は当然返答が速いわけです。返事が遅くなると、「この会社、大丈夫かな?」と思われます。そして何より相手に迷惑をかけてしまいます。

 特に大企業がベンチャー企業を待たせるのは罪だと感じます。DeNAがまだ弱く小さいベンチャーだった時代、自分たちより図体の大きい会社に提案をすると、相手の大企業が「少し考えます」と言って引き取り、その後待てど暮らせど返事がないことに本当に困りました。返事をいただく前に他社に行くこともできず、事業展開に遅れが生じ、資本体力上とても苦しかったです。私たちが上場し資本が安定した今、とにかく待たせないこと、特に当方より規模の小さい会社には、少し無理をしてでも即検討してすぐにお答えするよう心がけています。我が社が迅速にお断りしたことにより、競合との座組が早くできてしまう場合もあるでしょう。それにより少し損をしても、「あの会社はきっちりと誠実に、そして迅速に答えてくれる」という評判により得るものの方が大きいはずです。

 また、できるだけ提携交渉の枠組みはシンプルにした方がよいですね。もちろん役割分担や収益の分け方など、実際は細かい議論が必要です。けれども、まずシンプルな考え方に合意し、詳細の迷路に入ったら、お互い合意した大枠の考え方に立ち返って決めていくとよいでしょう。

 「交渉」で一番よろしくないのが少しでも得をしようとブラフ(ふっかけ)をかましたり、引き延ばしたり、複雑にしてけむに巻いたり、という手練手管です。近寄りたくないですね。スピーディーにシンプルに、そしてブラフではなく正直に、一緒に新しい価値を築く気持ちで臨みたいものです。

 次回からはまた遺伝子検査事業のエピソードに戻ろうと思います。ごきげんよう。

南場智子のDNA 私の仕事哲学 バックナンバー
第5回 「真面目に仕事をしている」 あなたの成果が上がらない理由
第4回 だから私は、「耳の痛い話」に積極的に耳を傾ける
第3回 今でも肝を冷やす「過去のミス」 第一印象は当てになる? ならない?
第2回 なぜ、私は新卒1年目の社員を躊躇なく抜擢したか
第1回 給料をもらって仕事をしている自覚がないのか

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