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DeNAが昨年5月にリリースした戦国シミュレーションRPG『戦魂 - SENTAMA -』 (以下戦魂)。
様々な会社から戦国時代のゲームが発売されるなか、他の戦国ゲームとは一線を画すキービジュアルが仕上がった。
広告のキービジュアルとロゴのアートディレクションを手がけたのは、世界的に活躍するアートディレクターの川上シュン氏。イラストレーションは川上シュン氏が水墨画を現代にアップデートする表現に定評のある與座巧氏に依頼したことでも話題となった。
川上シュン氏はこれまでゲーム領域でのアートディレクションを担当したことがなかったというが、今回なぜ『戦魂』のアートディレクションに携わることにしたのだろうか? また水墨画でイラストを手がけた與座巧氏が今回のクリエイティブで意識されたこととは? アート/ビジネスの領域をボーダレスに活躍されるお二人に、領域を横断して活躍するクリエイターとしての仕事スタイルについて聞いてみた。
--今回『戦魂』のアートワークを依頼されたときの率直な印象はいかがでしたか?
川上さん「最初の打ち合わせでタイトルロゴを書家に、キービジュアルを水墨画家に依頼したいというお話を聞きました。そこですぐに書家の宮村弦さん、イラストレーターを與座巧さんにお願いしよう、と頭に浮かんだことを覚えています。その座組でプロジェクトが進められるのであれば、いわゆるゲーム的なクリエイティブ表現と上手に差別化を図ることができそうだなって思いました」
--與座巧さんは川上さんからお声がかかったときどう感じられました?
與座さん「以前から川上さんとは面識があったので、まずは今回、ゲームのお仕事をされるということに驚きました。川上さんの持っているテイストをゲームというフィールドに落とし込むことで、新しい提案ができるのではないかという予感はありました。また、それとは別の方向性で、たまたまゲーム関係のビジュアルを作りたいと考えていた時期でしたので、『是非やりたい』とすぐにお返事させていただきました」
--どういうやり方でお話を振っていったのでしょうか?
川上さん「基本的に僕の方からは、『こういうのが欲しい』といった話はしないですね。必要なキーワードとかセンテンスをクリエイターさんにお伝えして、そこから彼らにイメージを膨らませてもらうことが多いです。自由な発想で制作をしてもらったほうがよりいいものができると思っているので。 今回の場合は、ターゲットが『戦国時代は好きだけど、ゲームはやらない層』でした。それを伝えた程度で、あとはほとんど話さなかったよね(笑)」
與座さん「そうですね(笑)」
--イラストレーションの制作とロゴの制作は同時進行で進んで行ったのでしょうか?
川上さん「どちらかというと、先に僕と弦くんで作ったロゴができて。それを與座くんに『僕らはこんな感じのロゴを作ったよ』と共有しました」
與座さん「そうですね。ビジュアルに関しては、見させてもらったロゴからイメージを膨らませました。僕はゲームが結構好きで、ロゴも気にして見るようにしているのですが、一目見て既存のゲームのロゴとは作られ方が異なっていて、すごく洗練された印象を受けました。また、DeNAさんサイドからはストーリーが共有されていたので、洗練されたロゴのイメージとゲームのテイストの橋渡しができるようなビジュアルを作りたいなって思いました」
川上さん「結構、紆余曲折ありましたね(笑)払いや字体を太くするとか色々なオーダーがあって、やっぱり既存のゲームユーザーに届くようなビジュアルに寄せたいみたいなこともあったし。いわゆるゲームファンであるDeNAのなかの人に、『戦国好きでゲームをやらない人に向けるために、伝統的なカリグラフィーのスタイルを踏襲して、それをアップデートした今までにないキービジュアルにしよう』という話をしていったという感じかな。
だから小さく表示されたときに『止め、はね、はらい』とか墨が跳ねたときに見える滲みって見えなくなるんだけど、できる限り弦くんが書いた書のトーンに近い形で残してて。そういうディテールをこだわりぬくことが1つのハードルだったかな。結果として、今のロゴは最初に提案させてもらったものにかなり近いものになっていますね」
與座さん「今回に関しては、『ゲームらしさ』という考え方は一旦脇におきました。それより、戦国時代に武将が戦場に向かうときの息遣いがダイレクトに感じられるものになるように絵作りをしていきました。インスピレーションのソースとして時代劇であったり、戦国時代の映画を観るように心がけたんです。例えば、土煙の中、群衆が戦場に行くような勢いのあるシーンの声などからイメージを膨らませて...。ゲームらしさという部分は、後から付いてくるんじゃないかなという予感がありました。そこをコアに据えてしまうと、表現として引っ張られてしまいそうで」
川上さん「そういう意味ではいい塩梅でバランスがとれたかもね。僕は一切ゲームをやらないし、そういう人でもゲームをやりたくなるようなものを目指すところでは、『この絵なら僕もやりたい』って思えたよ。むしろ『このままDeNAさんに水墨画でゲームを作ってほしい』って思ったくらい(笑)」
--川上さんも與座さんも作家としても活躍されている人だと思うのですが、クライアントワークされる際にどのようなことを意識されておりますでしょうか?
與座さん「誰に届けるのかということを意識します。自分のイラストレーションがプロジェクトに入ることで、コアのコンセプトを指し示す役割ができているかどうか、という点はかなり意識しますね。今回の『戦魂』でいうと、広告を見た人にこんな方向性のゲームがあるのか、という事をわかってもらえるようにしたかった。また制作する側の人にとって、イラストからインスピレーションが膨らんで、ストーリーや世界観の方向性が具体化していくようなものになればいいなとも思いました」
川上さん「僕としてはいくらマーケットに届くものを目指すと言っても、そのためにデザインやイラストの文化度を落とすようなことはしたくないと思っています。きちんと格好いいビジュアルのまま、それをいかにマーケットに届けるかというところを意識している。だからそういう環境が整わない可能性のあるお仕事は、申し訳ないのですが、お断りさせてもらうこともあります。というのも自分はすべてのプロジェクトを『作りたくて作っている』というものにしたいから。共感できないプロジェクトとか自分が面白いと思えないプロジェクトは受けるべきではないというのが持論としてありますね。これは人によって意見が分かれるところではありますけどね」
--そうは言っても、なかなか自分の作家性を生かして仕事にするのは簡単ではないと思うんですけど、どうやってそういう状況を作っていく、またはアジャストさせていっているんでしょうか?
川上さん「それはやっぱり作家として仕事以外の表現をたくさんやっておくということなんじゃないかな。そうじゃないと好きを仕事にするのは難しいと思う。むしろアートディレクターみたいな職業は音楽も映画も文化も芸能もビジネスも自分が興味を持てることに対して、ジェネラルに情報を拾ってくことが一番大事かな。そうすればポンとお題が来たときに、自分の引き出しから提案できるし、ネットワークから仕事にすることができるんじゃないかなって思っています。だからそういう意味では、アートとビジネスの境界は僕にとってほぼない。もちろん作家として活動するときは、自分との対峙で、ビジネスをやるときはその自分の要素と世間の時流やオーダーをいかにくっつけるかってことは意識しますけどね」
--與座さんに質問なのですが、元々デジタルツールを使ってイラストレーションをしてきたなかで、水墨画の表現に興味を持たれて、作家さんに師事された理由はなぜなのでしょうか。すごくモダンなツールと日本の伝統的な表現は正反対にも思えるのですが。
與座さん「たまたまそうとは意識せずに描いた作品に『水墨画みたいだね』と言ってくれた人がいたことがキッカケです。日本古来の水墨画の文化に触れていくうちに、墨の滲みやカスレ、余白を活かした構図、黒と白だけでできたストイックな世界観に惹かれていきました。デジタルの手法に関してはほぼ独学で身につけたものですが、古典技法である水墨画を自分一人だけで学ぶことは無謀であるように感じて、尊敬できる作家さんを探していたところに紹介していただけたのが、水墨画家であり、現代美術家でもある師・土屋秋恆先生です。
確かに言葉の上ではデジタルと古典は正反対のようなイメージを持つかもしれませんが、例えば水墨画とデジタルを組み合わせることで、現代ならではの表現が生み出せることもたくさんあります。両方の技術に触れてきた僕にとって、水墨画とデジタルツールを使うことはとても自然なことですね」
--川上さんも日本の伝統的な文化をモダンに昇華したような作品が近年多いのには似たような理由があるのでしょうか?
川上さん「僕の場合は元々海外にすごく憧れがありました。NY・パリ・ロンドンなどデザインにおいては日本より進んでいるからね。それで、ロンドンにずっと滞在して作品を制作していると、逆に日本の良さが見えてきて。よく言うのは僕の目が外国人になってきているという言い方をしていて。日本文化の素晴らしさや文化的土壌を取り入れないと海外で日本人のアーティストとしてやっていけないということにも気付きました。結局自分のアイデンティティーをベースとしたものを作らないと勝てないんだなって。しかも、日本で美しいとされているものと海外で美しいとされるものに共通する部分も多かった。例えば『間』とか『侘び寂び』はミニマリズムに通ずるものもあるし。そういう価値観になってから、日本の伝統文化を掘り下げて、それを現代的な形で解釈した作品をやりだしたのかな。海外に憧れて、次第に日本的になるという意味では、與座くんもそうじゃない?」
與座さん「そうですね。まだイラストレーションが仕事になる前は、アメリカのストリートから始まったPOPアートが好きで、それに近しいものを描いていた時期もありますからね」
--これまでのお話を踏まえて、クリエイターに必要な素養や、これからの時代のクリエイターに求められるマインドセットは何か教えてもらえたらと思います。
川上さん「2020年に東京オリンピックもあるし、日本はこれから強制的にグローバル化される流れにいますからね。そうなったときに、日本の伝統に依拠したローカルな文化の素養を持っておくのは必要不可欠だし、同時にグローバルな視点も求められる。世界のものと日本のもの、古いものと新しいものをうまく融合させたものを作っていく必要があるんじゃないかな。僕は"バイリンガル表現"と呼んでいるんだけどね。そういう視点なくしてこれからのクリエイティブは語れないかなって思っている。『戦魂』のキービジュアルとロゴはそういう意味では、今言った話に近いんじゃないかな。だから、これからのクリエイターは大変だと思います。英語と日本語。デジタルとアナログ両方できないといけないから」
與座さん「川上さんのお話とも重複することですが、今の時代、本当にたくさんの手段が用意されていますよね。フルデジタルだから新しいということでもなくなってきたのかなと。コンセプトをしっかり見据えた上で、どういうやり方で表現するのか、きちんと取捨選択していけることが強みになってくると思います。そのためには、色々なところに目配せできる懐やレンジの広さが大事になってくるのかもしれないですね」
--最後にこれから目指していきたい表現について教えてください。
川上さん「アート表現とビジネスにおけるコマーシャル表現は両極に思えるけど、その中間のものを作っていきたいですね。きちんと格好いいものを作っても、適切な相手に届けることができなかったら、ビジネスにならないから。だから自分の作家性から生み出される表現をどのマーケットに届けるかっていうマーケティング的な視点まで持てたら理想的だなって思っています。格好いいものを作るのはプロのクリエイターなら当たり前で、それを単なるエゴの発露に終わらせないことを大切にしたいですね。コマーシャリズムにも走りすぎたくはないのは当然だけど、文化的度の高い表現をきちんと届ける方法を模索しながら活動していきたいですね。理想主義者かもしれないけど、僕はその両立は可能だなって思っているんですよ」
<取材・文:冨手 公嘉 構成・編集・撮影:DeNA>
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川上シュン(かわかみ・しゅん)
アートディレクター / アーティスト
1977年、東京/深川生まれ。artless Inc.代表
日本の伝統美と現代的感覚、古典技法とテクノロジーを組み合わせるなど、アートとデザインの境界に位置する「芸術としてのデザイン」を探求している。その領域は多岐にわたり、アート、デザイン、タイポグラフィック、インタラクティブ、ビデオ、インスタレーションなど、アートとデザイン双方から多方面へアプローチを続け、グローバルに活動中。「NY ADC: Young Gun 6」受賞(2008年)、「カンヌ国際広告祭」金賞(2010年)、「ONE SHOW DESIGN(NY)」金賞(2013年)など、国内外で多数の受賞歴を持つ。
Webサイト:http://www.shunkawakami.jp/
與座巧(よざ・たくみ)
イラストレーター/水墨画家
大阪生まれ。webデザイン制作会社・グラフィックデザイン事務所数社にてアートディレクターとして勤務の後、2010年よりイラストレーターへ転身。水墨画と他の画法をミックスし、「伝統と革新」「異文化の共存」をテーマに、イラストレーションを中心としたビジュアルコミュニケーションを展開。2009年より墨閃会代表/水墨画家 土屋秋恆氏に師事し水墨画を学び、2013年よりウラタダシ氏に師事しイラストレーションを学ぶ。墨閃会会員。デザインユニット「mokuva」メンバー。主な仕事に『ウルトラヒーロー年賀状(2016)』原画、『ヨハネスブルグの天使たち』(宮内悠介/早川書房)表紙イラスト、「SHINE LIKE A BILLION SUNS( BOOMBOOMSATELLITES)/overcome」カバーアートなど。
Webサイト:http://middle2nd.jp/
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