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初出:『日経ビジネスアソシエ』 2016年3月号
日本全国どこにでもいる普通の小学校1年生が学校の授業で8回ほどプログラミングを習ったら、どんなことができると思いますか? 動くプログラムをお見せできないのが本当に残念。結果は素晴らしいものでした。それぞれの児童が、自分が描いた絵をプログラムに取り込んで、思い思いのゲームやアニメーションを作ったのです。1人ではなく、一部のできる子、でもなく、全員が、です。UFOをロケット爆弾で撃ち落とすゲーム、サンタクロースが家々を訪問し、ギフトを配るとその家の窓がぱっと明るくなるアニメーションなど、思い描いた世界を表現できるよう、工夫してプログラミングしていました。
この取り組みは昨年度、佐賀県武雄市の山内西小学校で始めたものです。ビジュアルプログラミングを用いたタブレットPC用教材アプリをDeNAが開発し、講師も毎回派遣し、担任の先生方と入念な打ち合わせをして一緒に授業を行っています。
さて、先日、2年目の発表会がありました。去年1年生だった児童は、当たり前ですが、全員2年生。引き続き授業でプログラミングを学んでいます。いったい今度は何ができるようになったのかな。胸を躍らせて武雄に出掛けました。
1年生では「くりかえし」や「もしも」といったコマンドなど基礎的な制御構造を学びましたが、2年生では回数や秒数などの変数、加えてメッセージ機能を用いてキャラクター同士を連携させることを学びました。そして、絵だけでなく、音を取り込むこともできるように。
男の子はバトルゲームが大好き。キャラクターが武器を発射する時は「くらえ!」、敵に命中すると「どっかーん」と自分で吹き込んだ音が出ます。80秒で敵を倒せなければゲームオーバー。筆箱を机にカチンと打ちつけた音でホームランを表現し、打つと塁を走る野球ゲームもありました。
女の子もいろいろです。鍵盤ハモニカの音を取り込んで作った音楽を奏でるソフトはかなり複雑なプログラミングをしたようです。「お父さんめろめろ」というタイトルの作品には笑いました。ケーキの前に立ちはだかるお父さんを倒すために、若い女性のハートを送ります。ハートが5個当たるとお父さんがめろめろになって消え、ケーキを取ることができます。
発表を見ながら子供たちの将来を想像しました。この中から未来のマーク・ザッカーバーグが出るかもしれない。プログラマーやIT起業家にならなくても、先生、お医者さん、大工さん、食堂経営、会社員、それぞれの職業でITを用いて仕事の仕方を効率化したり、新しい商品を考えたり、そういった発想がいとも簡単にできる人材に育つのだろうなぁ、と頼もしく感じました。
10年後には今の職業の47%が自動化されるとのこと。コンピュータと競争する人材になるのか、コンピュータに使われる人材になるのか、それともコンピュータにコマンド(指示)を出せる人材になるのか。コマンドが出せる人材がどれだけいるかが国の競争力にも、国富にも直結する時代が来ます。そして何より、使える道具、活躍できる世界が広がることは個人の幸せにつながります。
その信念のもと、初等教育でプログラミングを義務教育化するべきと主張する我が社は、小学校低学年を対象に、授業に組み込むかたちでプログラミング教育を実施しています。現在は武雄市に加え、横浜市でも取り組んでいます。
アンケートでは、授業を受けた子供たち全員がプログラミング授業を続けたいと答えました。どこが楽しいかの答えは、ストーリーを作るところ、プログラムを工夫するところなど皆それぞれですが、多くの児童が発表会が楽しいと答えていました。
間違えない達人を量産する日本の教育では、感動やパッションを共有する力はあまり重視されません。作品を発表する子供たちを見て、プログラミング教育は、日本の教育の課題解決にも大きく貢献するのではと感じました。プレゼンテーション力だけではなく、そもそも、ひとつの正解を言い当てるという教育と、道具を駆使して独自の世界観を作るプログラミングは対極です。独創性を重んじ、論理的思考力や組み立て力を育むプログラミング教育は、〝日本病〟解決の決め手になると思えてなりません。
ここまで書いて、アドバイスがない!と編集部から指摘。そうですね、皆さんも多かれ少なかれ「正解はひとつ」という教育の犠牲者ではないでしょうか。これからの時代には大きなハンディキャップです。そこを意識することから始めなくては。私も含めて。
南場智子のDNA 私の仕事哲学 記事一覧
第10回 そう滅多にできていない 「社会人生活の初日」からできること
第8回 仕事の成果を出すこと」を邪魔するもの
第7回 「ロジカルシンキング」に欠けている 致命的なポイント
第6回 交渉の"王道テクニック"は「百害あって一利なし」
第5回 「真面目に仕事をしている」 あなたの成果が上がらない理由
第4回 だから私は、「耳の痛い話」に積極的に耳を傾ける
第3回 今でも肝を冷やす「過去のミス」 第一印象は当てになる? ならない?
第2回 なぜ、私は新卒1年目の社員を躊躇なく抜擢したか
第1回 「給料をもらって仕事をしている自覚がないのか」