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※この文章は、日経産業新聞「VB経営AtoZ」の村田マリによる2016年9月8日付連載記事を、著作権者の許可を得て一部編集の上転載したものです。
最初に起業したベンチャーのM&A(合併・買収)後、私は家族とともにシンガポールに移住しました。温暖な地域の方が、子どもの病気が治りやすいと知ったことが主な理由です。
住み始めてからの2年間はそれまでの多忙な仕事生活からは完全に離れ、育児中心の専業主婦としての毎日を送りました。家族と共に暮らす生活はとても楽しい日々ではありましたが、一方で仕事をしていた時と異なり孤独になりがちだったのも確かです。またいろいろと身の回りのことをしようにも、育児の傍らでは自由な時間もなく、不便さを感じていました。結果的に、この2年間の経験が次の起業のヒントになっています。
具体的に言うと、子育て中の主婦はあらゆる情報を必要としますが、外出の機会も限られ、パソコンの前に座ってゆっくり時間を使って調べものをする、なんてこともほとんどできません。忙しい家事の合間に手持ちのスマートフォンで必要な情報を「スピーディーに閲覧」でき、かつ「豊富なコンテンツ」のあるサービスが、当時は圧倒的に不足していると感じました。
そこで、私と同じような子育て中の主婦向けに疑問や悩みを解決する情報コンテンツを集めたキュレーションプラットフォーム事業を立ち上げることを決めました。2度目の起業準備に入り、専業主婦生活にも終止符を打ちました。この計画に賛同してくれた日本のメンバーにも一時的にシンガポールに滞在してもらい、事業化に向けて動き出しました。そして2014年12月、住まいとインテリアの情報を提供する「iemo(イエモ)」を立ち上げました。
2度目の起業は、一度通った道なので、事業上のリスクもあらかじめ回避でき、迅速に事業化に向けて進め流ことができました。また、育児中の女性経営者でありながらもベンチャーキャピタルの投資を受けることができました。これは、一度起業している実績と身をもって得た経験による成果であり、シリアルアントレプレナーとしての強みが発揮できたと思います。
その一方で、2度目の起業は、新規事業の遂行と育児との両立という新しい環境での挑戦でもありました。そこで感じたのはシンガポールでは子育てのインフラがしっかり整っているということ。多くの人種を受け入れている国ということもあり、多様なライフスタイルに応じた子育てをサポートする選択肢があります。
そしてシンガポールに本社を置く多くの企業では決して珍しくない海外とのリモートマネジメントの手法を知ったことにより、日本のメンバーとも問題なくコミュニケーションを図れるようになりました。時間と距離の制約を超えたビジネススタイルに挑戦し、これを確立することができました。
こうして事業化した「iemo」は、子育て中の女性や主婦に向けて「百人百様の暮らし」を掲げ、毎日の暮らしを豊かに、喜びあるものにするコンテンツを提供するキュレーションプラットフォーム事業として走り出しました。そしてサービスを開始して9ヶ月経ってDeNAの子会社となり、現在では月間1400万のユーザーが訪れるメディアに成長しています
iemo株式会社 代表取締役CEO
株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員
村田マリ
早稲田大学卒業後、サイバーエージェントに入社。05年3月コントロールプラス株式会社を設立し12年に売却後、シンガポールに移住。13年iemo株式会社を設立。14年ディー・エヌ・エーに買収され同社の執行役員に就任。