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初出:『日経ビジネスアソシエ』 2016年5月号
今年も約50人の新卒がDeNAに入社しました。もうすぐ研修が終わって現場に配属されます。私はこの季節がとても好きです。未熟だがやる気のある新顔が一定数まとまって入ってくることは、不思議と皆にフレッシュな張り合いを与えます。そして、良質な非常識で会社の垢に気づかせてくれることもあります。
この「良質な非常識」というのを我が社はとても大切にしています。私は、対人関係において挙動不審な人は苦手です。大人なんだから、本質に関係ないところで不必要にびっくりさせないでくれ、と面倒になってしまいます。挙動は常識的に。けれども思考は会社や業界の常識に支配されないようにしてほしい。事業や組織の発展の可能性は常識の延長線上にはありませんから。新卒はその点、ほぼ全員非常識。しかも数万人から選ばれた新卒たちですから、なかなか鋭く良質な非常識さを持っています。
中途採用でDeNAに来た人もいろんなことに気づいてくれます。これも重要な情報源です。例えば「本当にフラットなんですね」という驚きは私もよく耳にします。でもそれは、あくまで転職元の企業、多くが日本企業ですが、そこと比べて、ということです。どこの企業の常識も持ち合わせていない新人から見たらどうなのか。チームがベストに機能する形になっているかどうか、とんでもない非効率は本当にないか、「会社ってこういうものだから」と諦めてしまっていることはないか、など、新人のホンネは本当に有益です。
私は毎年研修の最終日に2時間ほど時間をもらって皆に話をすることにしています。そこで我が社の社員であれば皆満たしていることが期待されている「DeNA Quality」の話をしますが、その中でも特に思ったことを堂々と発言することを求める「発言責任」を強調するのは、DeNAの常識に染まっていない今から早速その責任を果たし、会社を変えていってほしいからです。とんでもない勘違いもあって、無知さをさらけ出して恥もかくでしょう。でも給料をもらっているのだから、恥くらいかいてほしいのです。
さて、もうひとつ、私が新卒に必ず伝えることは、ベタですが、誠実に仕事に向かうことです。仕事をしていく中で、必ず失敗はします。私自身もそうでしたが、はじめはものすごく要領が悪くて仕事ができない人もいると思います。でも「できる」「できない」よりも大事なことは、仕事に向かう偽りのない姿勢だと感じています。
話は少し横道にそれますが、多くの人が私に事業に出資してくれと言いに来てくれます。今、私はまだ自分自身が事業家、経営者でありたいフェーズで、ほかの人の事業に個人として投資することはありませんが、他人の応援もやろうというフェーズになったら出資も考えると思います。そのとき誰を応援したくなるだろうと想像すると、答えはとても明確です。
有名な人、でもなく、何かの事業を成功させた人、でもなく、そして、以前我が社にいて仕事ができた奴、でもないのです。私が少し無理をしてでも助けたい、応援したいとい思う相手は、一緒に仕事をする中で仕事の姿勢に魅せられた人です。この人にはウソや「こすさ」がない、舌をぺろっと出して逃げてしまう人ではない、それを一緒に汗をかいて仕事をした中で私自身が確信できているという人が、自分の2本の足で立ち上がって何かをしようとして、その出資者として私を頼りにしてくれたら、迷わず助けたい。
今は分かりやすくお金のサポートを例に取りましたが、1人でできる大仕事などほとんどありません。色々な形で応援してもらわないと達成できないことばかりです。大体の人は忙しく、助けを求めてくるのを待ち構えてなどいない中、その人自身の目的までの最短距離から少し遠回りしてでも助けようとしてくれるかどうかは、困難にぶち当たっても逃げないまっすぐな仕事ぶりに対する信頼が一番大きいのではないかと思うのです。
南場智子のDNA 私の仕事哲学 記事一覧
第9回 未来のザッカーバーグになり得る子供たち。では、私たち大人は?
第8回 仕事の成果を出すこと」を邪魔するもの
第7回 「ロジカルシンキング」に欠けている 致命的なポイント
第6回 交渉の"王道テクニック"は「百害あって一利なし」
第5回 「真面目に仕事をしている」 あなたの成果が上がらない理由
第4回 だから私は、「耳の痛い話」に積極的に耳を傾ける
第3回 今でも肝を冷やす「過去のミス」 第一印象は当てになる? ならない?
第2回 なぜ、私は新卒1年目の社員を躊躇なく抜擢したか
第1回 「給料をもらって仕事をしている自覚がないのか」
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