株式会社ディー・エヌ・エー(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長兼CEO:守安 功、以下DeNA)の子会社である株式会社DeNAライフサイエンス(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:米山 拡志、以下DLS)は、一般向け遺伝子検査サービス「MYCODE」ご利用者10万人強のうち約9割の方に研究参加同意をいただいている、「健康長寿社会の実現」を目的としたゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research(
https://mycode.jp/survey/research)」で2020年に実施した活動総括レポートをまとめました。
2020年の実施研究事例(※)は、継続中の研究を含め17件で、累計6万名の「MYCODE」会員様に研究参加協力をいただきました。企業との協業では、これまでになかった初の日本人対象の研究結果が目立ちました。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、緊急事態宣言下に独自のユーザーアンケートも実施しました。なお、これらの研究成果は、対外発表だけでなく、研究協力をいただいた「MYCODE」会員様に向けてメールや会員ページを通じてご報告しました。
(※)2020年に「研究計画」「データの取得」「データの解析」「研究成果の発表」のうちいずれかを実施したもの
【主な活動報告】
②森永乳業株式会社
腸内細菌に関する初の(※1)日本人の網羅的ゲノム解析 遺伝要因が腸内細菌に影響を与えることを確認
初めて日本人の腸内細菌に対する網羅的なヒトゲノム解析を行い、遺伝要因の影響を確認しました。日本人の腸内細菌は、お酒の強さや単一遺伝子疾患のような、特定の遺伝子が大きく影響しているのではなく、ゲノム全体の複数の遺伝子多型
(※2)が影響することが明らかになりました。
本研究の成果は、2020年11月18日に英国科学誌『Communications Biology』にオンライン掲載されました。(
https://doi.org/10.1038/s42003-020-01416-z) 。
本研究で得られた成果は、腸内細菌の民族差を理解する上で基礎的なデータとなることが期待されます。また本研究の成果は、インターネットを活用することで、ユーザーコミュニティの個人が、自らの同意の下で研究に参加して科学の発展に寄与できる、“Community-derived science”の実現により得られました。この新しい研究形態は、研究参加者リクルートやデータ収集に膨大な時間とコストがかかる従来型の研究の困難を解決し、研究成果の社会への還元を加速させることが期待されます。
(※1)GWAS(網羅的ゲノム解析)のデータベース「GWAS catalog」 検索"microbiome"(2020 年 10 月時点)
(※2)SNPなどのDNA配列の個人差
(プレスリリース:
https://dena.com/jp/press/004663 )
③IQVIAジャパングループ
製薬企業向けヘルスデータプラットフォームでの協業開始
疾患に関連する遺伝子の統計情報や疾患・体質・生活習慣などのアンケート情報の関連解析結果をデータベース化し、医薬品の有効性・安全性検証や創薬研究に利活用することを目的とした製薬企業向けプラットフォーム「Genome Wide Study Platform」における協業を2020年12月より開始しました。
製薬企業は、このプラットフォーム内の各種データを閲覧・利活用することにより、ゲノム統計データに基づく創薬研究及び開発における新たな仮説創出や検証が可能となります。さらに、本サービスにIQVIAが保有する幅広い医療データやソリューションが加わることで、診断と治療におけるメカニズムの解明や臨床データが補強され、医薬品の有効性・安全性のさらなる精緻化を図ることができます。
(プレスリリース:https://dena.com/jp/press/004669 )
④株式会社ファンケル
尿と血中の栄養成分の関係に着目した研究を実施
尿中における栄養成分の排泄量と血中の栄養成分との関係性を確認する試験を実施しました。尿検査から栄養素の充足状態を把握する新たな方法が明らかになることが期待される本試験は、300名の「MYCODE」会員様にご協力いただきました。検査場所は、DeNA本社のある渋谷ヒカリエに加え、新型コロナウイルス感染症拡大防止に配慮しソーシャルディスタンスの確保が可能な横浜DeNAベイスターズ本拠地の横浜スタジアムの屋内練習場にて実施しました。
[横浜スタジアム 屋内練習場での検査実施風景]
⑤人類遺伝学会
2種類のゲノム研究について、日本人類遺伝学会第65回大会で口頭発表
①インフルエンザのかかりやすさと遺伝要因の関連性
近年着目されている感染症への罹患は、遺伝要因と環境要因が複雑に影響していると考えられています。そこで、一般的な感染症の一つとしてインフルエンザのかかりやすさへの遺伝要因への関与を調査するため、過去4シーズン中3回以上インフルエンザに罹患した方と、一度も罹患していない方を対象としたGWASおよびパスウェイ解析を行いました。その結果、PTPRC遺伝子領
(※)や、NotchシグナルやB細胞シグナルの関与が示唆され、インフルエンザには免疫応答の関与を支持する結果でした。インフルエンザ感染対策への応用が期待されます。
②研究参加行動と遺伝要因の関連性
医学・生命科学の発展は一般市民の研究協力に依るところが大きく、研究参加行動の心理的背景の理解は重要な課題です。そこで、「MYCODE Research」のウェブアンケートに参加経験のある方と、参加経験のない方を対象としたGWASを試みました。その結果、朝方・夜型の特性や、メンタルヘルスとの関連が報告されるZCCHC7遺伝子領域との関与が示唆され、研究参加行動に関連すると考えられる几帳面さや協調性などの性格的特徴との共通性が考察されました。
(参考:
http://www.congre.co.jp/jshg2020/)
(※)TおよびB細胞抗原受容体シグナル伝達に関わり、リウマチ関連遺伝子としても知られる遺伝子領域
⑥新型コロナウイルスに関するユーザーアンケート
「MYCODE」会員の皆様が、新型コロナウイルスをどのように受け止めているのか、実際の行動変化、社会情勢への評価などについてアンケートを実施しました。
<調査概要>
調査期間:2020年5月8日~5月14日
調査対象:「MYCODE」会員
調査方法:メールマガジン会員向けインターネット調査
有効回答数:2995件
【総括】
「健康長寿社会の実現」を目的としたゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research」は、サービス開始から6年を経て、多くの研究成果を「MYCODE」会員の皆様および社会に還元することができるようになりました。2020年の研究活動として特筆すべきは、「MYCODE Research」の最大の強みである約9万人分の日本人ゲノムを生かした研究から、世界で初めて日本人で確認された研究結果を見出すことができたことです。この成果として、国際学会での発表や学術論文への掲載につなげることができました。
日本人という単一民族のゲノムを保有するユニーク性を最大限生かしながら、研究参加に意欲的な「MYCODE」会員様とともに、企業・アカデミアと積極的に連携していきたいと考えています。近年では、研究だけにとどまらず、蓄積されたデータを活用した取り組みや、研究成果に基づいた新規事業化まで伴走させていただく事例も増えてまいりました。R&Dをベースにしながらも、DeNAとしての強みを活かしながら広く社会に貢献し健康長寿社会の実現の推進となる研究活動・事業発展を目指してまいります。
【DeNAのヘルスケア事業と「MYCODE Research」の取り組み】
DeNAのヘルスケア事業では、「シックケアからヘルスケアへの転換を実現し、健康寿命を延伸する」をミッションに掲げ、ゲーム事業やスポーツ事業で培ったエンゲージメントサイエンスやこれまでのヘルスケアサービスのノウハウを組み合わせた各種サービスを提供することで、ヘルスケア領域における社会課題の解決を目指しています。2015年に開始したゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research」では、「MYCODE」利用者10万人のうち、約9割の方に研究参加同意をいただいており、インターネットを活用することで、ユーザーコミュニティの個人が自らの同意の下で研究に参加して科学の発展に寄与できる、“Community-derived science”が実現しています。開始以来これまで累計約20件のアカデミアや企業との共同研究を実施、研究参加者の募集において一般的には数ヶ月かかるのに対し「MYCODE Research」では数日間で最大2000名規模での募集が実現できており、さらに試料提出やアンケート回答においても参加者の意欲が高いためタイムラグや回収漏れが少ないことも特長です。インターネット活用による迅速かつ大規模な募集力とデータ回収率において高い評価をいただいています。
(※)遺伝子の多様性の一つ。SNPの遺伝子型を調べることで疾患のなりやすさや体質の特徴を知ることができる
[インターネットを活用したユーザー参加型のゲノム研究「MYCODE Research」体制]