ヘルスケア

日本人にビフィズス菌が多い理由に乳糖分解酵素の遺伝子型が関与している可能性を確認

科学雑誌『PLOS ONE』に掲載

2018年10月23日
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  森永乳業株式会社(東京都港区、代表取締役社長:宮原 道夫、以下森永乳業)と株式会社DeNAライフサイエンス(東京都渋谷区、代表取締役社長:瀬川 翔、以下、DeNAライフサイエンス)は、ヒトを対象とした遺伝子型※1の腸内フローラへの影響を明らかにするため、会員参加型のゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research(マイコード・リサーチ)」※2を通じて、2016年より共同研究を実施しています。
  今回研究の初めての成果として、日本人の腸内にビフィズス菌が多い理由のひとつが、小腸での乳糖の分解・吸収機能の弱さである可能性が示されました。
研究背景と目的
  ビフィズス菌は、多くの生理作用を有することが報告されており、乳糖やオリゴ糖(ガラクトオリゴ糖、ラクチュロースなど)などにより増殖する、代表的な有用菌です。これまでの腸内細菌研究※3、4から、日本人の腸内には欧米人などよりも高い割合でビフィズス菌が存在していることが報告されていますが、その理由に関しては明らかにされておりませんでした。そこで今回、ヒトを対象とした遺伝子型に着目し、その理由を探索しました。
研究内容
<研究方法>
  「MYCODE Research」を通じ、健康な日本人の成人(20歳~64歳)、1068名の腸内フローラ解析を行ない、取得済みの遺伝子型のデータと併せて腸内細菌への遺伝子の影響について解析を行いました。たくさんの遺伝子の中から、今回はビフィズス菌の割合に影響を与えていることが複数の研究で報告されている乳糖分解酵素の発現に関わる遺伝子座※5に着目し、試験結果に加え既報のデータ※6、7も活用して、乳糖分解酵素の強弱に関わる6つの遺伝子座を調査しました。
<研究結果>
1.ビフィズス菌割合に影響を与える乳糖分解酵素の発現量を決める遺伝子型
  主に欧米人を対象とした研究※8、9で報告されてきたビフィズス菌の割合に影響を与える遺伝子座(rs4988235)の遺伝子型は、本研究対象者1068名および既報の146名を加えた1214名すべての日本人が成人で乳糖分解酵素の発現が少ないタイプの遺伝子型を持つことがわかりました。また、rs4988235以外の5つの遺伝子座※10についても日本人ではすべて発現が少ないタイプの遺伝子型であることがわかりました(図1)。
  つまり、乳糖の分解・吸収は主に小腸で行われており、今回の研究結果から、日本人は小腸において乳糖の分解・吸収機能が弱く、乳糖が大腸に届きやすいことが予測されます。

図1 日本人における乳糖分解酵素の発現に関連する遺伝子型の割合
2.乳糖分解酵素の発現に関する遺伝子型の世界比較
  次にこの結果が日本人の特徴なのかを明らかにするために、既報のデータ※7を活用して他の地域の人々との比較を実施しました。その結果、乳糖分解酵素の発現が低い遺伝子型のみを保有する人種は、日本人を含む東アジア人のみであることがわかりました。
  つまり日本人は小腸における乳糖を分解する酵素が、欧米人ほど機能していないと推測され、乳製品等に含まれる乳糖は小腸で分解・吸収されにくいために大腸まで到達する可能性が高く、結果大腸に棲むビフィズス菌が増殖しやすい環境になっているのではないかと予測されます。
3.食習慣とビフィズス菌割合の関係性
  ヒトの腸内フローラを形成している菌の種類や割合は異なっており、日本人でもビフィズス菌が多い人、少ない人が存在しています。そのため、すべての日本人が同一の遺伝子型を保有していたという今回の結果は、日本人の腸内にビフィズス菌が多い理由の一部を説明できたに過ぎません。
  しかしその一方で、食習慣とビフィズス菌割合の関係性を解析したところ、乳製品の摂取量とビフィズス菌の割合に正の相関が示されることがわかりました(図2)。つまり、日本人は乳糖を含む乳製品を摂取することでビフィズス菌を腸内で増やすことができる確率が高いことを示唆しています。

図2 腸内におけるビフィズス菌の割合と乳製品の摂取量の関係性
4.まとめ
  本研究成果(Association between functional lactase variants and a high abundance of Bifidobacte-rium in the gut of healthy Japanese people.)は、オンライン科学雑誌『PLOS ONE』(10月19日付)に掲載されました(URL: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0206189 ) 。
  日本人の腸内にビフィズス菌が多い一因を明らかにしただけではなく、乳糖の摂取によりビフィズス菌を増やす可能性が示されたことから、腸内細菌のコントロールや健康維持といった観点からも意味のある研究成果であると考えています。
  森永乳業とDeNAライフサイエンスは、共同研究を含め、様々な観点から腸内フローラに関する基礎研究を継続し、エビデンスを積み重ねることで、人々の健康維持と笑顔のあふれる豊かな社会の実現に向けた新しく正確な情報を発信できるよう努めてまいります。
<参考>
※1 遺伝子型:ある形質の発現に関与する遺伝子構成を表したもの。
※2 MYCODE Research DeNA ライフサイエンスの遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」会員の中から研究に同意いただいた方の協力を得て行うユーザ参加型の研究プロジェクト
※3 DNA Res. 2016 Apr;23(2):125-33.
※4 BMC Microbiol. 2016 May 25;16:90.
※5 遺伝子座:染色体やゲノム上での遺伝子の位置のことです。
※6 Clin Exp Gastroenterol. 2012;5:113-21.
※7 Nature. 2015 Oct 1;526(7571):68-74.
※8 Nat Genet. 2016 Nov;48(11):1407-1412.
※9 Cell Host Microbe. 2016 May 11;19(5):731-43.
※10 rs4988235以外の5つの遺伝子座 乳糖分解酵素の発現量に影響を与えるとされるrs4988235以外の遺伝子座(rs182549, rs145946881,rs41380347,rs41525747,rs869051967)