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B.LEAGUEに所属するプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」の運営を2018年に承継して以来、「まちづくり」や「ファンづくり」を原動力に、さまざまな施策を推進しています。
SNSの特性やユーザー層に合わせたデジタル戦略では、YouTubeのチャンネル登録数10.7万人*、TikTokの総いいね数570万*を超える反響を呼び、新規チケット購入にも繋がりました。地域に密着した施策とのかけ合わせにより、承継前年は1試合の平均来場者数Bリーグ7位でしたが、承継3年目の2020-21シーズンにはB1で1位を獲得するなど、成果が形になって表れ始めています。
川崎ブレイブサンダースでは来場してくださる方はもちろん、SNSを通して応援して下さる方も「ファン」と位置づけ、コミュニティ形成を大切にしています。この記事では、ファンをつくるためのデジタル戦略や未来へのビジョンを、DeNA川崎ブレイブサンダース事業戦略マーケティング部 藤掛直人に聞き、解説いたします。
*2022年6月21日時点
「ファンづくり」を進めるうえで、一度来場された方にご満足いただけるように、体験価値を最大化することは重要です。そのため、承継初年度は観戦してくださった方に満足していただくことを目標にした施策を先行。理念の一つでもある地域密着のまちづくりを念頭に、地域や小学校とのリアルな接点づくりを積極的に進めました。アリーナ観戦をエンターテインメントな演出にリニューアルにしたことも後押しとなりリピーターが増え、第1シーズン終盤には翌年にアリーナを満員にする目途が立ちました。
一方で、アリーナの収容人数は約5千人。観戦体験だけではブレイブサンダースのファンになってもらう機会が足りないのではと考えました。約1万人収容の新アリーナを建設する計画は承継した当初からありましたが、まだ先の話。かつ、倍の収容規模のアリーナへ移行するためにも、リアルに留まらないファン数の拡大が必要と考え立案したのがデジタル戦略です。そして、6つのSNSを活用した情報発信の強化が始まりました。
積極的なSNS施策を検討し始めた2019年2月といえば、YouTuberだけでなく芸能人がYouTubeチャンネルを開設し始め、動画を配信することが大衆化していく走りの頃。スポーツ発信を攻めるのに絶好のタイミングだと捉え、YouTubeを注力対象として選びました。プレイ動画を中心とした従来の“かっこいい”路線から、コンセプトを一新。YouTubeの視聴者層が楽しめるような企画系コンテンツを増やしました。
その結果、企画系コンテンツ第1弾として配信した「【プロが隠れてやっている】ドリブルが上手くなるための練習方法を特別に教えちゃいます。」は再生回数39万回*、「プロバスケ選手がゲーセンにあるシュートゲームに本気で挑戦した結果…」は再生回数98万回*を記録。コロナ禍初期の、スポーツ興行が軒並み中止になる状況下でも有効なファンへの情報発信の一つだと、数々のメディアでも取り上げられました。
2020年にはTikTokを本格的に開始。若年層を中心とするTikTokでは視聴者のオススメに表示されるよう、インパクトを残す構成を意識しています。試合中の動画に流行りの楽曲や目を引くテキストでエンタメ性を演出したり、バスケのルールやチーム、選手名を知らない前提での編集を心掛けたりしています。
ダンスやコミカルな動画などを見て楽しむユーザーの多いTikTokでは、ノンバーバルな動画が国境を越えて受け入れられることが分かりました。ウルグアイ出身の選手のプレーが含まれる投稿へ、海外ユーザーからのコメントが殺到したのがキッカケです。
応用して、選手のダンクシーンを集めた動画へ選手の国籍と身長を表示させたところ、国内外で大反響をおさめました。言語を問わず伝わる表現をし、「こんな小さな日本人選手がダンクを決める!」とシンプルに伝え、驚きのコメントをしたくなるように工夫しています。
また、LINE公式アカウントでは、新たに川崎ブレイブサンダースに興味を持ってくださった方の初来場や、1度来場してくれた方の再来場を促すことを目的としています。観戦回数などに応じて表示メニューを変えたり、各種プレゼント情報などファンだからこそ嬉しいコンテンツを配信したりしています。LINE公式アカウントはユーザーに通知が届くことで情報を逃さないことが利点ですが、通知が多いことで煩わしさを与えないよう配信回数や内容には気を配っています。
*2022年6月21日時点
YouTubeとTikTok、LINE公式アカウントが新規ファン獲得へのアプローチを主な目的とする一方で、既存ファンの熱量を更に高めていただくため、Twitter・Instagram・オンラインサロンを運用しています。
Twitterでは試合中のリアルタイム実況や練習前の一コマなど、来場者や既存ファンの熱量を高めることを意識しています。また、川崎ブレイブサンダースのマスコット「ロウル」の専用アカウントは、バスケに興味がなくても楽しめるような発信をおこない、若い女性や子どもたちにも楽しんでいただいています。
Instagramでは、ストーリーズ投稿はフォロワー(既存ファン)向け、フィード投稿は川崎ブレイブサンダースを検索してくれた方に向けたコミュニケーションを意識しています。また、フィード投稿はInstagramらしい“かっこいい”ブランディングで統一するなど、コンテンツに沿った内容や更新時間を精査しています。
ファン同士や選手とファンのコミュニケーションを深めるために運営しているのがオンラインサロンです。日々の練習や栄養管理、選手同士の信頼関係の構築、監督やスタッフの想いなどを共有していくことで、ファンの方と共に優勝までのストーリーをつくりあげていくことを目指しています。選手によるライブ配信など、インタラクティブな交流も魅力の一つです。
実際に、サロン会員へ選手からリプライが届く「リプ祭り」では、膝を怪我をして心身共に不調に陥っていた学生が選手との直接対話で励まされて、リハビリをがんばれたというお声をいただきました。また、受験期の娘さんを抱えるお母さまからは、お気に入りの選手が出演するYouTubeの「食レポ動画」を視聴していた娘さんが受験勉強のストレスから開放され受験も乗り越えられたといった、嬉しいご報告もいただいています。
デジタル戦略の成果の一つに、YouTubeでの集客が実証されました。観戦チケットを初めて購入した方を対象にした来場のキッカケを聞くためのアンケートで、YouTube公式チャンネルをあげる回答が5割を越えたのです。また、TikTokでは従来の施策だけでは接点を持てていなかった層へアプローチできました。
来場者全体を対象としたフォローしているSNSに関する設問では、YouTube・Twitter・Instagramが60%を越えている一方、TikTokは20%程度。しかしフォロワー数はTikTokが最も多い。つまり裏を返すと、これまで来場されていない方がTikTokを起点に興味を持ってくださっていると考えられます。
スポーツ興行は売上の柱が、チケット・スポンサー・グッズ/飲食・放映権の4つです。それら全てに影響をもたらす入場者数がキードライバーといわれるなかで、川崎ブレイブサンダースではアリーナの収容数に囚われない、ファン数の拡大に着目してきました。
チケットを購入いただく方だけがファンではありません。SNSのフォローや視聴、いいねなどの行動一つひとつによって、コンテンツ内のオススメにピックアップされるなど、ファンがファンを呼ぶ循環が生まれます。反響がキッカケでスポンサー協賛・ビジネス連携・メディア露出に結びつくなど、PR効果や売上面でも波及効果を肌で実感しています。
2021年11月には、子どもたちの居場所となることを目的とした『THE LIGHT HOUSE KAWASAKI BRAVE THUNDERS』を武蔵小杉にオープンしました。無料で遊べるバスケットコートや漫画本、川崎ブレイブサンダースやNBAの試合映像を楽しめる施設です。他にも、eスポーツを発信したり、ダンスやスケートボードなどで遊べるような新しいスポーツに触れる機会を増やす施設も計画中です。
どの施策においても、効果測定のためのデータ分析や週・月単位での施策の振り返りなどをおこなっています。このようなこれまでDeNAのゲーム運用で培われたノウハウを基盤にし、お客さまに楽しんでいただくことを一番にしたコンテンツを企画しています。
アリーナ観戦での非日常体験だけでなく、SNSを通じて日常生活に彩りを与え明日への活力になるような取り組みを続け、川崎ブレイブサンダースがミッションに掲げる「川崎からバスケの未来を」の実現を目指していきます。
藤掛 直人
株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 事業戦略マーケティング部部⻑
DeNAに入社後、スマホゲームのプロデューサーを務め、タイトル責任者としてファンコミュニケーションに従事。 その後、バスケ事業の子会社立ち上げや経営戦略立案を主導し、体制構築後はマーケティング領域を統括。
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