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DeNAから2015年にリリースされたカーシェアプラットフォーム「Anyca(エニカ)」。2019年には、SOMPOホールディングスとタッグを組み、合弁会社『DeNA SOMPO Mobility』を設立し運営体制を強化しました。
さまざまな業界で「所有から利用へ」とシフトしている中、モビリティ業界でシェアリングエコノミーをリードするAnycaが、これまでの歩んできた道のりと実現していこうとする未来を、DeNA SOMPO Mobility 代表取締役社長を務める馬場 光に聞き、紐解いていきます。
――Anycaのサービスを簡単に教えてください
馬場:一言でいうとカーシェアプラットフォームサービスを提供しています。
現在、カーシェアには2種類あり、企業が個人にクルマを貸し出すレンタカー型のBtoCカーシェアと、個人や法人で所有しているクルマをオーナーが使わない空いた時間に“シェア”するタイプのカーシェアがあります。
Anycaは後者の中でも個人間のカーシェアがメインで、シェアしたいオーナーとクルマを利用したいドライバーをマッチングするサービスです。
――今でこそシェアリングエコノミーが普及してきましたが、リリースされた当初はあまり馴染みのないサービスで苦労したこともあったのでは?
馬場:おっしゃる通り、リリース当初は個人の所有するものをシェアするといった、シェアリングエコノミーという考え方自体があまり社会に浸透していませんでした。
空き部屋をシェアするAirbnb(エアービーアンドビー)が日本に上陸したのが2014年だったので、Anycaをリリースした当時クルマを他の人にシェアすることによるメリットを利用者に認識していただく点は大変だったところです。
また、そもそもリリースに至るまでのハードルが二つありました。
一つは、法の整備です。日本でクルマをシェアするためには、どういった法律の中でやるのか国土交通省にも相談しながら時間をかけて整理する必要がありました。
もう一つは、保険です。他者が所有するクルマを運転するという中で、安心・安全なサービスを提供することが切り離せないと考えていたのでシェアするうえで何かあったときに補償ができる保険をつくることが必要でした。この二つがサービスを立ち上げる上で大きなハードルでありながら、重要なポイントでもありました。
――そもそもカーシェアに着目したきっかけとは?
馬場:アメリカのUber(ウーバー)は、低価格で移動したい人と、空き時間に自分が所有しているクルマを使って、乗客からお金を稼ぎたい人をマッチングして、その手数料をもらう仕組みのライドシェアプラットフォームアプリです。個人の需要と供給をアプリを通じて見える化し、マッチングさせるシェアリングは利便性が高いことがアメリカをはじめ海外では認知され始めており、日本でもこの流れは必ず来るだろうと考えました。
それと個人的な話としては、新卒2年目でクルマを購入したときの実体験があげられます。購入したにも関わらず仕事が忙しくて、実際は月に2回程度しかクルマに乗る機会がなかったんです。それでも、駐車場代やローン、車検などの維持費は必ずかかってきます。
もし、自分が乗ってない間に誰かがシェアして乗ってくれれば、所有者としては維持費の足しになりますし、クルマを所有していない側からすると自分の都合にあわせて効率よくクルマに乗れる“疑似所有体験”ができるのでは、という気づきがあったのもきっかけです。
――利用状況はいかがでしょうか?
馬場:現在は累計登録台数2万台、累計利用者数が50万人以上(2021年6月時点)で、ありがたいことに毎年、右肩上がりに数字は伸びてきている状況です。
Anycaでは、最新の電気自動車を含む新型車やもう販売されていないクラシックカーなど1,000車種以上のクルマが登録されているので、乗ってみたかった憧れのクルマに乗れる体験も人気です。
最近では、LCCの飛行機を利用する際に、搭乗・到着時間が早く営業時間外でレンタカーが借りられないのでAnycaでシェアするといったお声も聞くようになりました。また、自然環境配慮の観点から世界遺産の富士山など一部観光地では、二酸化炭素(CO2)排出を極力抑えるために環境性能に優れたエコカー(電気自動車やプラグインハイブリット車)でのドライブを推奨するなどマイカー規制がある場所も増えてきました。そういった場所でもカーシェアを活用すれば気軽に訪れることができるので、時代の変化に合った利用もされてきています。
――2019年にSOMPOホールディングスと合弁会社を作りましたが、どのような変化が?
馬場:ユーザーが一番求めていた、安心・安全の強化を保険という形で表しています。
実は当たり前のことですが、保険は市場がないところに作られることはありません。ですので、これまでは個人間カーシェア専用の保険はなく、近しい業界の保険を利用していました。
ただ走行中しか補償が認められないなどのルールがあり、本来提供したい他者のクルマだからこそつけたい補償については適用外でした。
そこで、新たにカーシェア専用の保険「カーシェアプロテクト」を作り、シェア中の補償を手厚くしています。
更に今年「他車運転特約」という機能をリリースしました。
馬場:クルマをシェアする際に、ドライバーがクルマを所有し加入している保険があれば自身の保険を活用することを可能にしたものです。
これまでは、クルマに保険をかけることに着目していましたが、乗る人に目線を変えました。所有から利用へとシフトし、いろいろなクルマに乗るようになっても、自身に保険がかかっていれば安心という世界へと変えていくことができると考えています。
――リリースから右肩上がりで成長を遂げていますが、最近では個人間カーシェアに留まらずさまざまな取り組みをされていますよね。
馬場:まず、Anyca Official シェアカーを2019年に始めました。
馬場:サービスをローンチして4−5年経ったときに一定需要と供給のバランスが崩れてきたと感じたのがきっかけです。
密度ビジネスであるカーシェアは、基本的に二次交通での利用や、自宅の近く、旅先での利用が主になります。そうすると、必然的にクルマの台数とクルマに乗りたいドライバーさんのバランスが取れなくなるエリアが出てきます。
クルマを使いたい“今”のタイミングに使えないとサービスに人が訪れなくなり、利用拡大につながらないので、我々が人の多いエリアにクルマを置いてカーシェアサービスを盛り上げていこうという発想で始めました。
Anyca Official シェアカーは我々企業が個人にシェアするBtoC事業になるのですが、この台数を増やしていくというよりは、CtoCである個人間のカーシェアを拡大していく為の武器として運営しています。
さらに、法人がクルマをシェアする取り組みも二つおこなっています。
ーー法人がクルマをシェアする取り組みとは?
馬場:二つありまして、一つ目は公用車や社用車のシェアです。
馬場:公用車や社用車というのは平日稼働が多く、土日祝の稼働は全くないというケースが多々あります。一方レンタカーやカーシェアの需要は土日に集中します。これが上手くマッチングすれば需要があるのではと思い、最近では市の公用車などをシェアする取り組みを開始しました。
実は近年、SDGsの文脈で市町村の公約として公用車をCO2を排出しないクリーンエネルギーの電気自動車(以下:EV)へ転換するという動きがあるのですが、EVとガソリン車で比較すると、どうしてもEVのほうがコストは高くなってしまいます。
でも、公用車なので上がった分のコストはできるだけ回収したい。そこで、土日のクルマを利用しない空いた時間に周辺住民にシェア提供し車両を活用することで、コスト削減に繋げたいという市町村の想いもあり、始めました。
上手くマッチングすることで、現状のガソリン車と同等のコスト水準でスムーズにEVへ転換できれば、市町村だけでなく住民の方々にとっても環境負荷低減に貢献できたり、車両を必要な時間だけリーズナブルに利用できるようなメリットを提供できるのではと考えています。
将来的には、レンタカーが商業的に設置できない地域において、市役所や町役場の公用車をカーシェアとして活用することで、交通不全が起きているような地域でも移動手段の選択肢を増やしていきたいですね。
馬場:二つ目は、クルマを販売するディーラーが所有する試乗車のシェアです。
ディーラーでの試乗は大体15~30分と短時間に限られますが、1−2日とじっくり乗り心地を試してみたい方もいらっしゃいますよね。
Anycaを使えば乗ってみたい試乗車の検索が容易にでき、あまりディーラーに訪れる機会が少ない若者との接点も作れるということで、現在およそ全国で約240店舗(2022年10月19日時点)のディーラーがAnycaに登録してくださっています。
馬場:例えばEVは、購入するまで自身でクルマの充電を体験することは中々できないですよね。
だからこそ購入することへ不安を持つ方も多いと思いますが、シェアで好きな時間だけ乗ることができれば走行から充電、車庫入れまでの動線を体験することもできます。試乗走行だけだと気づかないポイントや、充電したことがないから不安に感じる気持ちの払拭にも繋がるのではないでしょうか。
これから世界的にもカーボンニュートラルの観点でEVの普及は必然と言われていますが、まずはEVの乗車機会や接点をAnycaが増やしていくことで、少しでも普及の一助になればとも思います。
また、Anycaのサービスを使えば、お買い物や小旅行など、家族とのお出かけの“ついで”に試乗体験をすることできるので、新しい体験や価値提供がディーラーのカーシェアを通してできると考えています。
――今後Anycaが目指したい世界とは?
馬場:モビリティ業界では今、自動運転の普及や所有から利用へのシフトなど、100年に一度の大変革期を迎えています。
この大きな変革の二軸がクロスする将来には、みんなが自動運転で安全に、クルマを持たずとも使いたいときに使えるような世界が待っているでしょう。
これは自家用車だけでなく、バスやタクシー、レンタカーなどの垣根を超えて来ると考えていて、市場がより大きくなる将来に何かしらアプローチしていきたいと思い、Anycaを推進してきました。
Anycaがあるから、使っていない間にシェアして維持費を軽減する、使っていないから手放してシェアでまかなうなど、その時々や人にあった所有から利用へのシェアリングエコノミーの形を少しずつ拡げていきたいです。
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