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創業20余年のベンチャー企業としてさまざまな領域で挑戦を続けるDeNAで、創業者の南場智子、前CEOの守安功に続き、2021年4月よりCEOとして舵取りを担う岡村信悟が描くビジョンとは。
就任1年目に新ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)や中期経営計画を刷新し、2021年にIRIAM、2022年にデータホライゾン、日本テクトシステムズ、アルムを傘下に加え、SC相模原の連結子会社化も発表。ここからのDeNAという船がどこへ向かうのか。エンターテインメントに次ぐ柱となる事業の構想を聞くとともに、岡村の日常に触れながら人物像にも迫ります。
ーー岡村体制になって一年半が経ちましたが、DeNAという組織はどう映っていますか?
岡村:僕が総務省にいた頃に、南場さん(代表取締役会長)をはじめとするいろんな社員と会う中で感じたDeNAの印象は今も変わっていません。南場さんの言葉では「永久ベンチャー」や「『こと』に向かう」と表現していますが、このポリシーに共鳴した人たちによって築かれた独特の雰囲気だと思います。フラットな組織の中で社員の個性が際立っていて、チャレンジにためらいがなく、かつ誠実。
一方で、DeNAへジョインした2016年にキュレーション事案があり、誤ちを繰り返さないための草の根活動がボトムアップで立ち上がり、そこで弱点として「連帯感」というキーワードがあがってきました。個は強いのですが、個々の繋がりや組織力に課題があることが浮き彫りになった年だと捉えています。
2019年にCOOへ就任して新体制でDeNAの経営に携わった2年間で感じたのは、「オンリーコネクト(※)」が必要だということ。
昔みたいに1人のスーパースターが現れて爆発的な成功を導くのではなく、DeNAという場で個が活かされ、個と個の連鎖によって大きなことを成していく。それが、一人ひとりに想像を超えるDelightを世の中へ届けることに繋がります。
多様な個性を星に例えたならば、中心となる一等星もあれば、もう少し弱い光の星もある。その時々で輝きが違うんだけれども、誰もが必要な星として一緒にいろんな星座を描く場にしていこうと思いました。
※イギリスの小説『ハワーズ・エンド(作:E. M. フォースター)』冒頭のモットー“Only connect(ただ結びつけさえすれば)”の引用。
ーー星座に例えるのは新鮮ですね。2021年4月にCEOへ就任してからは、どのように舵をとってきたのですか?
岡村:エンターテインメントから社会課題まで、DeNAらしく成長していくための土台作りからはじめました。四つの領域、ゲーム、ライブストリーミング、スポーツ、ヘルスケア・メディカルを明確に伸ばしていくための礎をつくること。基盤を支えるゲーム事業を整えることも大事だし、ゲームに並ぶ事業の柱もしっかりと育てなければなりません。
具体的には、ゲーム領域は新しいゲームづくりを模索しながら、目前では中国リリースへ挑戦。ライブストリーミング領域の『Pococha』と『IRIAM』は急成長する事業として、USやインドなどグローバルに向けたチャレンジ。スポーツはコロナ禍で活かせなかった横浜スタジアムをはじめとする興行。そして、2月から経営権を継承する予定のSC相模原はJ3から這い上がっていく。ヘルスケア・メディカルは、株式会社データホライゾン、日本テクトシステムズ株式会社、株式会社アルムを仲間に迎え明確な戦略を持って取り組む基盤ができたので次の柱として着実に育てる、ということです。
2021年に新MVVと中期経営計画を刷新して変革と種まきをおこない、2022年には前述の通り基盤を構築しました。そして、さらなる挑戦の第一歩と位置付ける2023年。この3年間は変化の過程なので、引き続き「辛抱の年」になりますね。
※各事業の中長期戦略は、IR DAY(動画・資料)にて詳しく解説しています
ーーヘルスケア・メディカル領域で基盤が整ったとのことですが、ヘルスケア・メディカル領域へはどんな可能性を感じていますか?
岡村:インターネットは時間と距離を克服できるツールなので、社会課題領域に活かされることを日本中の誰もが期待してきたと思います。でも実際には、インターネットがなくても医療システムが成立してきたため、なかなか変わってこなかった。日本はかつて、世界に冠たる優れた医療体制だったので、ITの活用の優先順位は低かったのでしょう。
僕は、20年前から「医療へのIT活用」に関わってきました。総務省の地域通信振興課で地域情報化に携わっていたときに、岩手医科大を中心とした、医療従事者が遠隔で専門的な訓練を受けられるカンファレンスなどの実例も見てきました。
でも当時から、世の中が変わるのに20年以上かかるだろうとは思っていました。
それが今、ようやく必要不可欠な課題として浮上してきました。医療DXは待ったなし。日本は少子高齢化と医師の働き方改革によって慢性的な医師不足に直面しています。特に専門医が不足している地方では病床が活かしきれず、助かる命が助からない事態が増えかねません。新型コロナウイルス感染拡大があり、人と人が接触できない状況下で医療を支えるために、何らかの新しい手段が不可欠になったことも大きいです。
まさに、ITで遠隔医療を変革していく段階に入ったと言えるのではないでしょうか。
ーー医療における課題解決が必然に迫られてきた。それでもやっぱり、規制緩和っていう大きなハードルがあるように感じます。
岡村:そうですね。既存の医療規制にも意義がありますし、変化へのハードルは高いと思います。でも、そこで足踏みするのではなくて、果敢に挑戦するのがいかにもDeNAらしいと思っています。
我々はエンターテインメントから社会課題までいろんな挑戦を重ねてきました。モビリティにも挑み、政府や地方自治体などたくさんの方々と調整しながら交通システムのアップデートを推進してきました。ヘルスケア領域においても、8年ぐらい取り組んできた中で知見や関係値が積み上がってきています。
これからの時代は、公共の磁場を作るコーディネーターを民間企業が担い、リードしていくべきであると確信しています。多様なアイデアとテクノロジーによって、医療へのIT活用を日本から推進していく。例えば我々が提供するサービス『Join』で、医療従事者同士や病院同士、病院と診療所を繋げる。ヘルスケアサービス『kencom』によって健康寿命を延ばして医療費を下げていく。
“繋げる”というのは、コミュニティをつくること。これぞまさに、DeNAの得意とする分野だと考えています。
ーーご自身としては、どんなCEOを目指してきましたか?
岡村:「オンリーコネクト」ともう一つ「強い事業をつくって欲しい」と周囲に口酸っぱく伝えてきました。自ら強い事業をつくることに長けていた守安さん(前CEO)は、敢えて数字を示しながら「事業を大きくするんだ!」と引っ張ってきました。でも僕は、「僕より、この事業で実際に取り組んでいるあなたの方が優れているので、力を発揮してください」というスタンスです。
最初は「え?岡村さんがつくらないの?」なんて反応を受けることもありましたが、俯瞰で事業を見ることは僕が一貫してきたポリシーです。横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)の経営をやっていたときも、官僚をやっていたときも、同じような役割を貫いてきました。
DeNAには、僕と一緒に苦しみながらDeNAを支えてくれる仲間がたくさんいます。各領域でヒリヒリするような責任感を背負いながら、みんなが事業に向き合ってくれています。こういった事業リーダーが育つことでDeNAが強くなりますし、その過程でリーダーだけではなくその周りの星々がたくさんの輝きを生み出すと思います。
その代わり僕は、どれだけ俯瞰的に事業や未来を眺められるかを常に意識しています。おこがましいと思われるかもしれませんが、DeNAに入ったときからグループ全体の見込みは予測の範囲でしたから、全ての事象を淡々と受け止めています。その中で驚いたのは、ライブストリーミング事業くらいですね。正直、あの成長スピードは予想外でした。DeNA全体に関しては、中計の進捗も想定通りなので今の挑戦の成果が数年先に出てくることを、しっかりと見据えています。
ーーさて、ここからは毛色をかえて素顔に触れていきたいと思います。民間企業へ転身して環境の変化をどう感じていますか?
岡村:僕は、学者になりたかったくらい歴史や文学が子どもの頃から好きなんです。それなのに、まるで反対の官僚の世界やIT業界に身を置いたもんだから、本を読むことで心の安定を図っています。職場でも本が並んでいると安心するんですよね。家でも自分の部屋に収まりきらない本がリビングや玄関にまで山積みに並んでいます。
僕は不器用な人間なので、一度夢中になると執着してしまう性分なんです。大人になってからも寝る前に読書時間を設けていたのですが、CEOになって健康のために歩きはじめたら、散歩に夢中になってしまって。結果、読書時間が削られてしまったので、今は散歩中に今まで読んできた本の内容を頭の中で反芻しています。
ーー今は散歩に夢中なのですね。
岡村:そうですね。散歩も趣味というよりは、毎日のルーティンが止められなくなったといった方が正しいです。仕事でもなんでも、計画的に進めていくことが好きなので、1日1万歩と決めたら守らずにはいられない。雨の日でもオフィスや渋谷の地下街を徘徊している姿を知り合いに目撃されることがあるのですが、それは会議などの合間にルーティーン達成のための歩数を稼いでいるだけです。決して仕事をサボっているわけではありません(笑)。
執着でいうと、ゴルフもそうですね。ゴルフは、もともと経験が無かったのですが、ベイスターズに入ってからスポンサーの皆さまを招待するゴルフコンペを主催する関係でやらざるを得なくなりました。47歳のときです。運動神経がとにかく悪い僕が早々にコースデビューを迫られたので、一生懸命練習しました。外出中でもガラスに姿が写るたび、ところ構わず素振りをしていました。携帯電話を飛ばして液晶画面が網の目になったこともあるほどです。今思い返すと、ちょっと病的ですよね(笑)。
そうしたら、まさかこの僕がゴルフ歴2年程でスコア100を切ったんです。ますますゴルフが楽しくなってしまって、どんどんのめり込んでいきました。
でも、オチがあって……。元々誰かに教えてもらうことは苦手だったのですが人生で初めて素晴らしい先生に出会って、こつこつレッスンに通いました。その甲斐あっての急成長だったのですが、コロナで通えなくなってしまった途端にスコアがみるみる落ちてしまいました。
しかもなんと、緊張状態でパフォーマンスがでない「イップス」みたいな状態になってしまったんです。いつも通りスイングしようとしても、クラブを上げたところから下げられません。南場さんはその様子を見るたびに、大笑いです。運動神経の悪さが顕著に出ましたね。この前もあまりに自分が不甲斐なくて林の中でボールを探しながら涙をこぼしました。雨ニモマケズみたいです(笑)。
ちなみに、服装に関しては無頓着で、ゴルフズボンはしばらく1着だけしか持っていませんでした。人生で2着目のズボンを最近妻に買ってもらってからは、1着目は冬用の散歩にあてています。
ーー執着と無頓着なことが極端ですね(笑)。最後に2023年の意気込みをお願いいたします。
岡村:環境の変化がプラスにだけ働くものではないですし、現状、ピカピカとはいえない業績を急に、劇的に良くすることだけを目指すものでもないと思っています。重要なことは、構造的に強みを築きながら本質的な成長を遂げることです。そんな中でも、DeNAを力強く牽引してくれるリーダーたちと社員みんなが、ことに向かってやるべきことをやり抜くことで四つの柱が育つと確信しています。2023年はそれぞれの基盤から次のステージに登るための踏ん張りどきですね。
IT企業の成果は、従来とても短期間で評価されていたように思います。でも、社会に必要不可欠なものであれば地道に伸ばしていくべきです。これからの時代で持続的に発展するためにDeNAもバージョンアップしていきますので、ぜひ楽しみにしてもらえたらと思います。
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※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
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