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DeNAでヘルスケア事業を立ち上げた2014年から9年。この数年の、大型の業務提携契約や協業、相次ぐM&Aなど大きな動きを経た2022年10月には新たにメディカル事業本部を創設しました。
DeNAのヘルスケア事業はどこへ向かうのか。新たにDeNAグループに迎えた株式会社データホライゾンと日本テクトシステムズ株式会社の役員と、ヘルスケア領域の事業本部長を兼任する瀬川翔が語ります。
※本記事は、フルスイングの記事を当サイト向けにリライトしました。
ヘルスケア事業は、DeNAのエンターテインメントやスポーツで培ってきたノウハウを健康・医療の課題に対しても活用することで、社会課題の解決に貢献していくことを目指してきました。具体的には、「生活者の健康寿命を延伸、幸せに生きる時間を延ばす」をミッションに、エンターテインメント・デジタルを活用したサービスで行動変容、健康増進をサポートすることへの取り組みです。
その中でもここ数年は、2つのアプローチに注力してきました。1つ目は企業や自治体、研究機関などさまざまなパートナーの方々と協業すること。2つ目はDeNAとまったく違うアセットを持つ企業にM&Aという形でグループに入ってもらい、連合体として課題解決をしていくことです。
というのも、ヘルスケア領域の課題解決に取り組む際のステークホルダーは幅広く、生活者、保険者(健康保険事業の運営主体)、医療者、そして製薬企業・保険会社などをはじめとするヘルスケア産業の方々がいます。
ヘルスケア事業として従来から生活者や保険者の方向けのサービスをおこなっていましたが、より高齢者と自治体に注力していくために、自治体向けサービスでシェアトップの株式会社データホライゾン(以下、データホライゾン社)にグループに入っていただきました。また、メディカル事業としては医療者の方の課題解決にも挑戦していきたいという想いから、医療ICTベンチャーの株式会社アルムにもグループに入っていただきました。
ヘルスケアとメディカルが協業し、同じ基盤を持って事業を推進していくことで、利活用できるデータが蓄積されます。そのシナジーから製薬企業などにお役に立てることが増えてくると考えました。
DeNAがヘルスケアやメディカルの事業を進めていく中で、自治体は欠かせない存在です。今までは主に若い方に向けてアプローチをしてきましたが、今後は高齢者の方々にも行動変容をしていただける取組みにできなければ、真の意味での社会課題解決にはなりません。
日本の制度では、企業を退職した65歳以上の方は国民健康保険に入ることになるので、保険事業の観点でも地域や自治体を巻き込むことが重要です。国が標榜する地域医療構想を実現するためにも、自治体を巻き込んで地域と医療者を結び付けることが必要となっていきます。
一方で、高齢者にデジタルサービスを活用いただく事は難しいと考えられてきました。しかしDeNAでは事業開始当初からさまざまなチャレンジを重ね、少しずつ手応えを掴んできています。
例えば、DeSCヘルスケアが提供するヘルスケアエンターテインメントアプリ『kencom』は60代・70代の方にもたくさんご利用いただいています。まだまだ課題も多いですが、一度使い始めていただくと多くの方が何年も継続して利用してくださっています。
若年層だけではなく、高齢者の方にもデジタルの力で行動変容をサポートできている点は、ユニークだといえるでしょう。
昨年、DeNAグループに入った日本テクトシステムズ株式会社が提供する認知機能に関するサービス『ONSEI』は、利用の過半数が高齢者の方々となっています。最近ではNTTコミュニケーション株式会社へAPIを提供し、電話で20秒質問に答えるだけで認知機能の状態を判定できるサービスを開始しました。サービス開始した1週間で30万件もの電話が入るほどの反響となっています。
ONSEIはもともと自治体などで導入されてきましたが、シルバー人材センターへも広げようとしています。その一例として、センターから高齢者の方向けに仕事を紹介する際、このONSEIを活用いただくトライアルを始めました。
実際、このトライアルで認知機能チェックをいただいた方の1割に認知機能の変化が見られています。変化のあった方に事情を伺うと、前日寝不足だったという声などが聞かれました。「認知症」かどうかの手前で、日々の生活などでも脳の健康度合い変化をもたらし、その変化を手軽にセルフチェックできることに意義を感じています。
同じくDeNAグループに入ったデータホライゾン社では、糖尿病を患っている方に対して、透析が必要な段階に入らないようにする事業を進めています。透析は1人当たりの医療費が年間約1,000万円かかり、通院などで生活者のQOL(※)が著しく低下します。同社が広島県呉市でこのソリューションを10年間提供してきたことで、透析が必要な段階に至る患者数を約1/3まで減らした結果が出ています。
医療費や保険に目を向けると、企業の健康保険組合の加入者の多くは30代・40代なため大きな病気はまだ多くは発生しませんが、高齢者が多く加入する国民健康保険から支払われる医療費は企業健保の3倍以上。解決する問題の大きさが圧倒的に違います。
高齢先進国の日本にはソリューションの幅があり、検証や成功事例が作りやすいと捉えています。DeNAが成功事例をつくりグローバルに活用することで、世界全体の社会課題の解決を目指したいと考えています。
※QOL(Quality Of Life)。生活の質を指し、WHOでは「自分自身が生きている文化や価値観。目標・期待・基準・懸念に関連した自身の人生に対する個人の認識」としている。
社会では医療ビッグデータの利活用が求められ、各社にでもデータ利活用への参入や事業拡大が進んできています。
その中で、DeNAのヘルスケア・メディカル事業には「生活者にソリューションを届ける。保険者と一緒にそれを届ける」というビジョンがあります。保険者と一緒に、生活者にヘルスケアのサービスやソリューションを提供した結果として蓄積されたエビデンスやデータを、製薬企業や研究開発機関に活用してもらいながら社会課題を解決していく。この、サービスとデータの両輪で取り組むことがDeNAの存在意義だと考えています。
市場としても、ヘルスケア関連は今後も安定して拡大していくと言われています。10年後の市場予測をすることが難しいゲームやIT業界と比べ、ヘルスケア市場に関しては人口動態や医療費の増加ペースなどほぼ予測が可能なところも多いです。日本の人口構成の変化などによって医療費はこの先10年間で10兆円ほど増えることが見込まれています。逆に言えば、「このままでは間違いなく課題が大きくなっていく」ことの裏返しでもあります。
データホライゾン社の創業者である内海の言葉に「私はこの領域で失敗したことがない。なぜなら成功するまでやり続けているから」というものがあります。パートナーや新たにグループに入っていただく企業も含めて、そんな想いでヘルスケア・メディカル領域の課題解決を実現していきます。
執筆:さとう ともこ 撮影:内田 麻美
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。