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2014年からDeNAが個人スポンサーとして応援している日本で唯一のプロ車いすバスケットボールプレーヤーの香西 宏昭(こうざい・ひろあき)選手。2013年9月からドイツのスポーツクラブにプロ契約で加入し、車いすバスケットボールブンデスリーガ(連邦リーグ)で活躍されてきました。2021年東京パラリンピックでは銀メダルを獲得し、同年ドイツにて所属していたRSVランディルが、5シーズンぶりにドイツ・ブンデスリーガ(1部)を制覇。そして2022年からは日本へ帰国し国内の「NO EXCUSE」に所属。2023年1月の天皇杯では準優勝を果たしました。
本記事では、日本の車いすバスケ界を牽引する香西選手へ、なぜ日本へ戻って来られたか、またこれからについてを取材しました。
――昨年ドイツリーグから日本へ帰国し、「NO EXCUSE」チームで1月の天皇杯を終えたばかりですが、天皇杯はどういう気持ちで臨まれたのでしょうか?
香西氏:日本国内では天皇杯が一番大きな大会です。
僕が車いすバスケに出会った12歳からの恩師であり、東京パラリンピックでも監督を務めた及川 晋平さんが率いるチーム「NO EXCUSE」で、優勝を目指しました。
結果こそ準優勝ではありましたが、次に繋がる試合ができたと思っています。
――ドイツリーグから、日本のチームを選んだ理由をお伺いさせてください
香西氏:コロナ禍で東京パラリンピックが1年延期になってバスケから少し離れた時期がありました。実は、ずっと代表として戦っていると「シュートしなきゃ、点をとらなきゃ」といったことばかり考えてしまって、いつしか楽しいという感情は消えていたんです。でも、車いすバスケを再開した際にやっぱり好きだなと再認識したこともあり、東京パラリンピック後にドイツリーグのブンデスリーガに戻りました。
ただ、ドイツに戻ってからも、「どういう選手になりたいか」など将来をずっと考えながら最後のシーズンを過ごしていました。
そんななかRSVランディルから契約更新のお誘いもいただいたのですが「次世代につなげることをやりたい」と思い、帰国を選択しました。
――「次世代につなげることをやりたい」と思ったきっかけとは?
香西氏:僕は小学6年生で車いすバスケに出会い、(及川)晋平さんやマイク・フログリーさんとの出会いによってアメリカのイリノイ大学に留学する道も拓けました。とんとん拍子に聞こえるかも知れませんが、さまざまな偶然が重なったからの道のりだと考えています。
僕が偶然に経験したことを、必然的につくれないか。
やりたいことをやれる、その選択肢があることは当たり前なはずなのに、当たり前じゃないこともあるんですよね。
例えば障害が理由でその選択肢すら出てこないこともあったりします。でもそれはすごくもったいないと思ったんです。
自分の人生や選手生活を振り返りながら将来を考えているときに、これからは僕が次に繋げる人になろうと思いました。
――現役の選手でありながら、そう思い行動にうつすことは大変ですし珍しいことだと感じます。次世代へつなげる活動と両立しようと思ったきっかけがあったんでしょうか?
香西氏:そうですね。東京パラリンピックってすごく異質だったんですよ。
コロナ禍で観客の方もいないですし、大会だけど練習試合みたいな感覚も少しあって。
でも今回いい成績を出すことができた、ただそれがまぐれじゃないことを証明したい。
だから、現役を続けたいと思ったのもあります。
これまでは自分を高めるために、アメリカに6年、ドイツで7シーズンを過ごしてきましたが、海外でプレイだけをすることに疑問を持つようになったんです。
――なるほど。長い海外での選手生活から学んだことや気づきなどはありましたか?
香西氏:一番は、多様性についてでしょうか。
アメリカに留学する前は、みんな気が強くて我が強いんだろうなと勝手に想像していたのですが、実際チームメイトとして過ごしているとファミリー感がすごく強くてそんなことありませんでした。
当たり前のことですが、日本人だからアメリカ人だからは関係なく、人それぞれだなと。
また、チームを作ることやリーダーシップについても学びがありました。いいキャプテンだったとは思わないですが、アメリカの大学でもキャプテンを務めた時期がありましたし、代表選手としても東京パラリンピックの前には改めてリーダーシップについて勉強もしました。
これからの世代につなげる活動に関しても、自分が引っ張っていく活動をしないといけないと思いますが、どういうリーダーがいいかどうやってチームを作ればいいのかなどはバスケに限らず活きてくる経験だったと思います。
――天皇杯のプレイを通してもリーダーシップは伝わってきました。リーダーシップに関してはどういうことを意識されていますか?
香西氏:これまでリーダーシップではたくさん失敗しています。
リオパラリンピックでは我を出しすぎていい結果を残せなかったですし、その時に感じたくやしさや後悔、焦りを二度と感じたくなくてメンタルトレーニングを導入しました。
天皇杯の際に意識していたのは、オフェンスが苦しい試合が続いていたのですが、チームが崩れないように、どういう声掛けをしたらいいかなど考えながら取り組んでいました。
淡々とやることをやるだけでは多分勝てない。情熱や強い気持ちなど何かしらの大きなエネルギーも必要です。どっちがどのくらいのバランスなのか塩梅が難しく、試合中に模索しながら正解を探しているところです。
――メンタルトレーニングとはどういうものでしょう?
香西氏:目指したのは、パフォーマンスを発揮できるメンタリティです。
リオの際は、振り返ってみるとすごく揺らいでいて、自分をコントロールできていなかったことが試合結果にもあらわれてしまっていました。
なので、揺らぎたくない、不動になりたいことをメンタルトレーナーには伝えました。
そこで自分がどういうことに心が揺れるのか、起きた事柄と感情をセットでメモをとる手段を取り入れたんです。
書き出していくと、自分が苛立ちやすい人間だと気づきました。
そこから、その心の揺れを予期することを取り入れていくと、自分を客観視できるようになりました。試合中、「今いらついてる、それはもったいないよ」とか。
ちなみに、スポーツでは安心することも油断に繋がるので実はよくないという一面もあるんです。
ネガティブなことも嬉しかったことも、すぐ次に次にと切り替えをしていくことを心がけて、それが形になったのが東京パラリンピックでした。
ーーリーダーシップといえば、川崎ブレイブサンダースや日本代表でキャプテンを務めた経験のある篠山 竜青選手と仲がいいとお聞きしました。お互いに「キャプテン」として意識したり意見を交換したりされるんですか?
香西氏:そうなんです。普段は「りゅうちゃん」、なんて呼んでいるほどでやけに気があうんですよ(笑)。
りゅうちゃんが出場している試合を初めて観たときに、がんがん攻め込んでいき、試合の流れを変える姿をみてかっこいいなと。そこからBリーグも見るようになりましたし、ファンになりました。逆に、りゅうちゃんも僕の代表戦を観てすごいと思ってくれたようで、今では家族ぐるみの仲になっています。
普段からいろいろ話しますし、天皇杯を見て褒めてくれて、すごくテンションが上がったんですよね。褒め方ひとつみても、やっぱりキャプテンらしいなと思いました(笑)。
一緒のチームで戦ってると言えないこともあると思うのですが、アスリートでキャプテンという同じ立場であることが程よい距離感なのかもしれません。でも同時に一緒のチームでやれたら楽しかっただろうなと思うことはありますね。
――今後に向けて、目標や意気込みなどをお伺いしたいです
香西氏:まず今年最大の目標は、パリパラリンピックの予選で優勝を狙うことです。
そして、来年のパリパラリンピックでメダルを獲得し、東京でのメダルがまぐれじゃないことを証明したい。
メダルとってみて分かったのですが、勝ち続けるのってすごく難しいなと感じています。
大会の間隔もありますし、どうしても全く同じメンバーという訳にはいきません。
数人でも入れ替わると、チームを一から作り直すことと同じです。
今の新しい代表チームで、一から強いチームに作り直し、また一丸となってメダルを獲得しに行きたいと思います。
そのために、自分のアスリートとしてのレベルアップをしていきたいですね。
選手としては年齢が上になってきましたが、まだまだ若い選手に負ける気はありません。
ただ、今いる若い選手たちに自分が教えられる部分は教えて、次世代に繋げていくことも僕の役割だと考えています。
次世代に繋げていくって、実際に試合を見てもらって「あの場に立ちたい」と思ってもらうことが一番だと思うんですよ。
なので、いい試合を見せる、チームを信じて戦い続ける姿を見せる、目標に向かって進み続ける姿を見せることが一番大事かもしれないですね。
――スポーツを志す方や、ファンの皆さんに向けて、メッセージをお願いします!
香西氏:今年の天皇杯では、残念ながら準優勝と目標には届きませんでしたが、スポーツから得られるものは、すごく多いと感じています。今回の悔しさやわくわく感など、スポーツをやっているからこそ感じられるものです。ずっと戦いの中に身をおくのは、正直疲れる時もありますが、引退したら絶対恋しくなると考えています。こういったスポーツから得られる、仲間と戦う、競い合う、称え合うなどといった経験を、全力で取り組んで全力で感じとっていってほしいと思います。
また、少しずつ会場での声援などの制限が緩和されてくると思いますので、これからも全力で応援していただけると嬉しいです。
これからは、若い世代の方や受傷歴が浅い方が、車いすバスケをやってみたいと思うような活動も両立してやっていきたいと思いますので、ぜひ応援してください。
試合会場などで見かけたら、ぜひ『ひろあき』と応援お願いします!
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