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DeNA SPORTS GROUPでは、日本のスポーツ産業をさらに盛り上げていくことを目的に、スポーツビジネスをテーマにした『DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE 2023』を2023年2月22日に開催しました。Keynote#1では、南場 智子が「DeNAが見るスポーツビジネスの今」と題し、スポーツビジネスの魅力や抱える課題と可能性ついて登壇。
Keynote#2として、DeNA 代表取締役社長兼CEO岡村 信悟が、自身の総務省での官僚として、また横浜DeNAベイスターズでの事業運営の経験を通し、スポーツを核としたまちづくりや長期的な目線で見たときの文化づくりについて語りました。この記事では、Keynote#2の内容を一部抜粋・編集しお届けします。
岡村:まずDeNAの取り組みについて紹介していきたいと思います。私たちは3つのプロスポーツを「神奈川」で手がけております。横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)から始まり、川崎ブレイブサンダース、2023年2月にはSC相模原の経営参画について発表しました。
私の構想でいうと、神奈川県、昔風にいうと「さがみのくにづくり」をしていきたい。(厳密にいうと、横浜市は大半は武蔵国に属していたのですが……。)要するに、スポーツコンテンツを地域のソフトインフラとして活かしながら、DeNAが取り組むスポーツビジネスで“ひと”と“まち”を元気にするという観点で従事しています。まずはプロスポーツとしてしっかりと収益をあげるということ。そして、そこに留まらず、そのプロスポーツ自体が地域のシビックプライドとして、地域の方々に支えられ受け入れられる。それがさらにスポーツスタジアムやアリーナを中心に広がり、さらにまちや地域を活性化していく。こういったことを「さがみのくにづくり」として捉え、神奈川県を代表する政令指定都市として、910万人の県民のうち600万人の市民がいらっしゃる横浜市・川崎市・相模原市を舞台にスポーツ事業の運営に取り組んでいます。
岡村:プロスポーツは公共財だと思っています。私が社長として関わらせていただいた、ベイスターズのスタジアムは公共施設です。スタジアム運営とはまさに公共財を運営するということになるので官民連携が必要不可欠となります。市長をはじめとする行政のみなさまに支えられ、積極的に参画いただきながらの官民一体となった地域づくりを意味します。
例えば、ベイスターズ・DeNA・横浜スタジアムが横浜市とスポーツ振興・地域経済活性化等を目的に締結した「I☆YOKOHAMA協定」や、川崎市と川崎ブレイブサンダースが締結した「持続可能な開発目標(SDGs)の推進に関する協定」など、しっかりとタッグを組み、ある部分では我々「民」が「官」を主導できるような形でまちづくりにコミットしていく。そして、いわゆる「公共の磁場」と言われるものを一緒につくっていく。それをスポーツで“ひと”と“まち”を元気にする「さがみのくにづくり」と称し、これからも取り組んでいきたいと思っています。
ですから、私たちの取り組みはプロ野球やプロバスケットボールなどのプロスポーツの運営だけでなく、例えば横浜市の旧市庁舎街区の活用事業や川崎市における「カワサキ文化会館」の運営など、まちづくりやまちの骨格そのものをつくり変えていくというところにもチャレンジしたいと思っています。
講演の最後には、株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 課長 桂田 隆行氏による、質疑応答もおこなわれました。
ーースポーツを起点にしたまちづくり、スポーツビジネスに取り組んでよかった部分や気づき、地域と向き合うにあたって重視しているところなどがあれば教えてください。
岡村:私自身の個人的な経験と重なりますが、行政からDeNAという民間の分野にきて、最初に取り組んだのがスポーツ事業でした。やはりスポーツ事業というのは大きくいうと公的要素も非常に強い、先ほども申した公共財です。ただ一方で大事なことは、民間企業として、プロスポーツという地域の大切なコンテンツを責任を持ってお預かりする以上、そのコンテンツをまず活かして、しっかりビジネスを成立させなくてはいけないということですね。
これについては、ベイスターズと横浜スタジアムをひとつのモデルとして学んできました。私自身がベイスターズに参画するときにはすでに、黒字化に向けてかなりの積み上げがありました。コロナ前だったこともあり、最盛期は球場の稼働率は98%を超えるほどでビジネスとして成り立つ状態でした。成り立つからには、より大きな付加価値をつけていくことを目指しました。そうすれば、地域の人々とのつながりの中で、いろいろな方々がステークホルダーとしてWin-Winになる機会になるでしょうし、我々だけでなく地元の企業がしっかりとビジネスを成立させていき、ファンの方々も大きな喜びを得る、という好循環をつくり出せるのではないかと考えました。
これを元に川崎ブレイブサンダースで川崎市との出会いがあり、次にSC相模原をきっかけとして相模原市との出会いがありました。当然そこを支えるファンのみなさまや地元の企業との出会いができて、さまざまな価値がこれからも生まれてくる。このような道筋を描くことを重視しています。
ーースポーツをビジネスとして成立させる上で難しかった部分や限界突破につながったキーワードなどがあれば教えていただけないでしょうか?
岡村:スタジアム運営においてチケット販売という部分に注目すると、それはキャパシティビジネスになります。そこで、キャパシティビジネスとして大きくするために、キャパシティを拡大する、横浜スタジアム増築・改修という選択をしました。
しかし、その後、誰も予想しえなかったコロナ禍となり、増築したにも関わらず無観客試合となってしまいました。ようやく2022シーズンからその厳しい状況を脱しつつありますが、その時期は黒字化を目指すというわけにはいきませんでした。しかし、このことから学んだことがあります。単年でのビジネスを成立させていくことが当然のことですがその上で、中長期での視点、リスクを加味した上でそれにも耐えうる厚みのあるビジネスにしていかなくてはいけないと強く思いました。
興行だけでなく、興行をとりまく教育関係や健康関係など、貪欲にビジネスの機会をつくっていく。それが、ソフトインフラで地域を活性化することやスポーツにとどまらず、スポーツを起点としたスマートシティ、つまり持続可能な都市を再構築するという部分で活きてくるだろうと考えています。IT企業として展開している、さまざまなサービスや事業を適用できないかと模索する貪欲さが必要ではないかと考えています。
ーー出発点はプロスポーツ単体であり、そこにDeNAの持つさまざまビジネスアセットや地域資源を乗せていく。そうすることでさらにスポーツ産業がスポーツビジネスとしても自走していくということですね。
岡村:そうですね。スポーツは19世紀以降に日本に導入されたわけで、それが素晴らしい「文化」として定着してきていると思っています。今の時代にふさわしい「文化」を創造して、地域や世の中の人々にとって不可欠なものにしていきたいです。文化づくりを支える担い手として私たちDeNAが必要とされるならば、プロスポーツや地域と共に我々も存続していき、我々も好循環の中でプレイヤーとして価値を提供していきたいと考えています。
ーーDeNAは神奈川だけでなく、日本のスポーツシーンに欠かせない存在になってきていると感じています。最後に、今後のDeNAのスポーツ事業戦略についてお聞かせください。
岡村:最近「Web3」という言葉をよく耳にしませんか? これは、インターネットの分散ということかと思いますが、その手前の分散の前に起こるのが集中型。そうすると、分散か集中かといった二元論になりがちですが、そんな中でもどちらかに偏るのは避けたいと思っています。
私たちは、インターネットを通じてグローバルにバーチャルなサービスを提供する。しかし、神奈川という地域においては、リアルなプロスポーツというアセットで目に見える地域の人々にさまざまな取り組みをおこなう。これを振り子のように揺らしていくことで、実は世の中の動きに即応しながらあるべき、もしくは、より地域や世界に価値を提供できるようなスポーツ事業の広がりを見出せるだろうと思っています。規模感に捉われないそのような広がりや、今までにないようなものを届け続けられるような取り組みを、スポーツに絡めながら実現できたらと思っています。引き続き、多くの方々と一緒にこのあたりのことを考えていきたいと思います。
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アーカイブ動画
『DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE 2023』
『まちづくりから描くスポーツビジネスの可能性』
https://www.youtube.com/watch?v=T2_tSsFdHBU&t=1449s
<スピーカー>
桂田 隆行(株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 課長)
福田 紀彦 市長(神奈川県川崎市)※VTR出演
岡村 信悟(株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO)
『DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE 2023』ではこの他にも、各チーム代表による経営方針、まちづくりやファンづくり、アクティベーションなどスポーツビジネスの可能性が広がる多様なセッションをお届けいたしました。カンファレンスの内容は、アーカイブ動画にて公開されています。ぜひ、そちらもご覧ください。
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