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セコム株式会社(以下、セコム)とDeNAは、ロボットを使ったシニア向けのコミュニケーションサービス「あのね」を2023年4⽉より発売開始いたしました。ご利⽤者へ24時間365⽇体制でコミュニケーターが返信をする、“⼈を介する”ことに拘ったコミュニケーションサービスです。
両者が“⼈を介する”コミュニケーションサービスに着目した背景には、超高齢社会が直面する課題にあると⾔います。今回は、セコムから辻村 康弘氏と船山 由起子氏、DeNAから吉田 航太朗を招き、本プロジェクトを推進する3人へサービスに託した思いや両社でタッグを組んだ経緯を聞きました。
ーーシニア向けロボット「あのね」について簡単に教えてください。
辻村 康弘(以下、辻村):ご利用者の生活に寄り添ったお声がけを通して、身内のような距離感でロボットとの会話を楽しんでいただくサービスです。ロボットからご利用者へ、24時間365⽇体制で人を介した返信がおこなわれるため、一人暮らしの方でもいつも誰かとつながっているような温もりを感じられるのが特徴です。
辻村:コミュニケーションサービスに着目した背景は、セコムが2015年からシニア層のお困りごと解決のサポートをする事業に取り組んできた中で、お声がけのもたらす効果に気がついたからです。例えば、台風の翌日に「大丈夫でしたか?」といったお声がけから“会話が生まれる事象”を喜んでくださる方が非常に多くいらっしゃいました。
一人ひとりのご自宅へ訪問してお声がけしたいところですが、人が寄り添うほどコストが嵩み、サービス利用料が上がってしまいます。だからといって、完全自動化されたメッセージや脈絡違いな返信が続いてしまっては、話しかける意欲がどんどん薄れていきますよね。そんなとき、のちに「あのね」に採用するユカイ工学株式会社さんのコミュニケーションロボット「BOCCO(※)」に出会い、試してみることにしました。
ーーロボットであれば、会話が成り立つのではと考えられたのですね。
辻村:正直、はじめは半信半疑でした。でも、トライアル検証をしてみたら、たくさんの方がロボット相手に積極的に話しかけてくださいました。ロボットから定期発信されるメッセージは事前にスケジュールの登録をおこなうことで自動送信されていますが、ご利用者からの返事に対しては100%人が確認したうえで返しています。また、ロボットはご利用者のご家族が送信したメッセージを話すこともできるので、ご家族間でメッセージのやりとりもできます。ロボット相手というより、向こう側にいる「誰か」を投影してくださっているのだと思います。
船山 由起子(以下、船山):トライアル終了時には、お試ししてくださった方から「一緒に暮らして楽しかったよ。ありがとう」などといったメッセージが添えられていることも多かったです。居候していた人を見送るような感覚でいてくださったのかもしれません。
実は、ロボットを活用する前に、スマートスピーカーでのコミュニケーションサービスを検討したことがあります。しかし、質問に答えてもらうような目的ありきの会話になり、これは違うねという判断をしました。何気ない日常の出来事や雑談に耳を傾け、返事がくるような体験を目指したいよねと。
こうした検討の積み重ねによって、ロボット側から話しかける形で会話をスタートさせた方が良いことにも気がつきました。使い始めはとくにご利用者から自発的に話しかけるハードルが高いですし、自分のことを気にかけて話しかけられる体験の方が嬉しいですよね。
ーーDeNAとの協業はどういった経緯からですか?
辻村:完全に人を介して返信するサービスである点で、コストがかかってしまうことが事業化における悩みの種でした。コミュニケーションサービスとしての価値は実証できたけれど、事業化させる点においてDeNAさんの力で解決できませんか?と話をもちかけたのが発端です。DeNAさんとは協業で「バーチャル警備システム」を進めていたこともあり、DeNAさんの技術力や大勢のユーザーを支える基盤力などを知っていたので、力になってもらえるのではないかと考えました。
吉田:ご相談をいただいてから直ぐに、ご利用者から本当に必要とされているサービスであることを目の当たりにしました。ロボットとの会話が成り立っているだけでなく、満足度が非常に高いことがうかがえました。
昨今、技術的な進歩が目覚ましいですが、技術だけでこの価値を担保して商品化できるかは、まだ未知数の部分も大きいと感じています。セコムさんが突き詰めたコミュニケーションの真の価値、「温もり」と「安心感」が利用者のニーズにマッチしたのだと思いますし、セコムさんがご利用者との対話を丁寧に積み上げられてきたことが伝わってきました。
この素晴らしいサービスをさらに大きな価値へと繋げていくお手伝いをしたいと思い、ぜひ一緒にやらせてくださいとお願いいたしました。
辻村:コミュニケーター体制を確立させるために、セコムではどれぐらいの人数が張り付けば対応できるかという概念でした。一方、DeNAさんのCSでは運用基盤が確立されています。多様に事業展開されていることもあり、サービスの繁忙時間にあわせて担当者のアサインを柔軟におこなうことで運用コストが抑えられ、事業化を実現できました。
吉田:DeNAの既存事業ではお問い合わせ対応が中心だったため、雑談などのコミュニケーションは私たちにとっても新しい挑戦です。セコムさんが築いた提供価値を第一に考えながら、ホスピタリティーの高いメンバーが日々尽力しています。
2023年4月にサービスをローンチし、まさにこれから体制を強化していくフェーズに入ります。ご利用者へ届ける質を向上させながら、いかに運用体制を効率化していくかが事業拡大の要だと考えています。
船山:昨年12月のトライアル期からコミュニケーター体制は実質、セコムからDeNAさんに渡っていますが、提供価値もシステム面も問題なくスムーズに移行できています。ご利用者からしたら、返信内容に柔らかさだったりエンタメ要素が入ったように感じられているかもしれませんね。
ーーコスト面が課題だったとき、なぜ24時間365日体制は変えなかったのですか?
船山:セコムは、CMなどの「トラブルが起きたら駆けつけます!」というイメージ通り、雨の日でも雪の日でも隊員が最後の砦となり現地に向かうことが基本です。警報信号を受信したときには、「あなたはこの現場に向かってください」といった指令も人が出しています。いつでも対応できる状況であることと、人が対応することへの拘りは、私たちの文化として染み付いているからだと思います。
ーー「あのね」の魅力は、どんなところですか?
吉田:まずは、使い勝手のシンプルさですね。ご家庭にWiFiの環境が整っていなくても、電源を挿すだけで使えるというように、ご家族の助けがなくてもすぐ使い始められるように「BOCCO emo(※)」がカスタマイズされています。シニアのニーズを知り尽くしたセコムさんの知見が随所に活かされていると感じました。
船⼭:シニア世代向けのサービスでは、ご本人が楽しめるものが意外と少なく、ご家族が安心することを優先した、見守りの要素が強いサービスになりがちです。でもそれだと、ご利用者のニーズとは少しずれている気がします。ご本人が楽しいからこそ声が明るくなって、心身の元気にもつながると考えています。
そして、遠隔から見ているご家族にもその様子を実感いただいています。以前、ご利用者の息子さんから返却時に「母にとってこのサービスは救いでした」とコメントをいただいた際には、思わず込み上げるものがありました。誰かの人生を彩るようなサービスに携われることにやりがいを感じています。
ーー心温まるエピソードですね。「あのね」が目指す今後の展望とは?
辻村:ご利用者の様子を見ていたケアマネジャーの方から「薬を忘れずに飲むようになりました」というレビューをいただいたとき、安心や楽しいだけのサービスではないことを確信しました。厚生労働省から残薬問題が与える医療保険財政や健康への影響について発表されていますが、薬を飲んでもらえたら解決につながります。
しかし、ご家族などが口酸っぱくお願いしても、日々の習慣にはなかなか繋がりません。巷にはお薬カレンダーやスマートスピーカーでのリマインドなどいろんな方法がありますが、「あのね」では薬を飲んでねと伝えると「ありがとう!」などの反応が返ってくるので催促に留まらない体験となっているのでしょう。かわいらしいロボットという存在自体が、素直に聞く耳を持ちやすいポイントなのかもしれませんね。
薬の飲み忘れを予防することで、少しでも病気の発症や進行を遅らせることができれば、結果的に医療費の適正化など、社会全体の保険料負担の適正化も期待することができます。
また、高齢化の進展に伴い、一人暮らしの高齢者の数は年々増え続けています。独居高齢者の約半数は2、3日に1回以下しか会話をしていないというデータ(※2)もあり、孤立が続くと認知機能や身体機能の低下をはじめとしたリスクにつながる恐れがあることから早期の対策が求められています。こうした超高齢社会における課題をも打破していけるサービスだと思っています。
船⼭:現代社会はネット環境が構築されて、アプリ1つで完結することが増えました。その反面、スマートフォンが苦手なシニア世代にとっては、不便を感じる場面が増えてきました。
スマートフォンを持っていなくても情報収集や情報発信できる世界を実現させたい、ワクワクする体験を届けたい。そんな気持ちでサービスづくりに向き合っています。シニア世代は日本の人口のボリュームゾーンでもあるので、需要も高いと考えています。
吉田:DeNAでは、ゲーム事業やスポーツ事業で培った、楽しませたり関心を繋ぎ止めたりするノウハウを活かし、UXリサーチを主導しながら、お客さまにとどける提供価値の最大化をおこなっていきたいと思います。
DeNAのグループ会社である、 ITの力で認知症に関する課題解決を目指す日本テクトシステムズやICTを活用しグローバルで医療サービスを展開するアルムなど、メディカル領域のノウハウを活かした開発も考えていますし、外部のパートナーさんと組んで可能性を広げていくこともできるでしょう。
そのためにも、多くの方に愛用していただけるように、セコムさんと力をあわせてサービス運用に取り組んでいきます。
※「BOCCO」及び「BOCCO emo」は、ユカイ工学株式会社の登録商標です
※2 内閣府「高齢者の健康に関する調査」(平成29年度)
サービスの詳細:
コミュニケーションサービス「あのね」|セコムの高齢者向け見守り(みまもり)サービス|防犯対策・ホームセキュリティのセコム
バーチャル警備システムについての記事:
エンタメ×社会課題を体現。セコムとDeNAがつくる「バーチャル警備システム」の意義と展望
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです