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地球温暖化対策やSDGsを背景に、ガソリン車からEV(電気自動車)への転換は世界的な社会潮流となりつつあります。しかし、日本の乗用車販売におけるEV比率は1.42%に留まり、EV普及で先行する北米、中国、欧州から大きく差を付けられています(※1)。
社会的な背景などさまざまな要因があるなかで、DeNAではEV普及のボトルネックになっていた「航続距離への不安(※2)」に着目。「データサイエンス」と「AI」技術などのノウハウや、自動車技術を組み合わせることで航続距離の事前予測を可能にする、EV転換シミュレータ『FACTEV(ファクティブ)』(https://www.factev.com/)を開発しました。この技術により、現行車からEVへ乗り換えやすくすることを目指します。
社内のキーマンであり、入社前の38年間は自動車メーカーに勤め、現在はDeNAのフェローを務める二見 徹に『FACTEV』の開発背景を聞きました。
※1 2022年1月〜12月時点の、ガソリン車とEVの販売台数を比較したデータ
※2 1回の充電で走行できる距離(一充電走行距離)のこと
自動車業界は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、大きな転換期を迎えています。世界各国の自動車メーカーがガソリン車からEVへのシフトに舵を切り、2020年には米国、欧州、中国を中心にEV世界販売台数が171万台を突破。EV市場が急速に広がってきています。
EVが量産販売され始めた2010年頃は日本がトップであったにも関わらず、日本国内におけるEV販売台数は足踏み状態。今や主要各国のうち下位に低迷するなど、世界から大きな遅れをとっているのが現状です。
もう一つ、EVの普及に欠かせない要素である「充電インフラの拡充」に関しても、初期は日本が先行していましたが、2016年から急激に減速してこちらも最下位に至っています。
EVの普及を阻害している大きな要因は、3つあると言われています。それは、バッテリー寿命、車体価格、航続距離への不安です。
現に、「バッテリーの劣化が心配」や「EVは高い」といった印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は、この2点に関しては既に改善されはじめていて、前者は10万km走行してもバッテリーの劣化が10%以下のEVが販売されています。後者も2025年頃にはガソリン車やハイブリッド車と同等価格まで下がるという予測が各国で報じられています。
日本でも、2022年からエコカー補助金の活用により200万円台で購入できる軽自動車のEV登場が起爆剤となり、日本国内における新車販売に占めるEVの比率も高まってきています。
となると、残る「航続距離への不安」こそが最大のボトルネックであるとDeNAでは考えました。航続距離を予測することで、充電するタイミングの見通しが立つので、前述の日本における充電インフラの不足もフォローできます。
では、なぜ航続距離が不安視されているのでしょうか。その理由は、カタログに明示されている走行可能距離と実際に走行できる距離との間に乖離があり、ガソリン車と比にならないくらい個人差が生じるためです。どれくらい走れるのかが、実際に乗り続けてみるまで把握できないとなると、いざ乗り換えようとしても二の足を踏んでしまいます。
この不安を解決するために、EVへの乗り換え前に入手できる僅かな情報から、将来的なEVの性能を予測できるアルゴリズムを生み出せないかを検証していきました。
車検証や定期点検情報を元に現行車の使用状況を分析し、全国各地の気温のデータや、地域ごとの細やかな道路データ、バッテリーの素材レベルまで遡った性能データなどを組み合わせた結果、航続距離の未来予測を実現したのがEV転換シミュレータ『FACTEV』です。
この予測により、EVの走行年数ごとに、1回の充電で走行可能な距離やバッテリーの劣化状況が分かるため、EVへの乗り換え障壁が低くなると考えています。
こうして完成した、EV転換シミュレータ『FACTEV』は、自動車の専門技術と多岐に渡るデータを有機的に繋げる点や膨大なデータを組み合わせる点において、AIに強いデータサイエンティストが揃っているIT企業ならではの強みが発揮されたといえます。
また、現行車の燃費も予測できるため、今の乗り方で現行車からEVに転換した場合のエネルギーコストやCO2排出量の比較もできるようになりました。
他にも、バッテリー残存性能の予測機能では、新車に限らず、中古車に搭載されているバッテリーの寿命や5年後の性能を事前に把握することも可能です。そのため、私用車だけでなく、社用車や商用車をEVに転換する際にもご活用いただけます。
例えば、リース会社でEVを商用車として導入する場合、リースアップ後の用途先の検討をすることもスムーズです。
しかし、いくら未来予測ができても、予測値と実測値が乖離してしまっては使いものになりません。そこで、精度の高さを検証するために、ガソリン車からEVに転換した後の実測データと予測値を比較検証しました。
予測値では安全面の観点で敢えて厳しめの結果を算出するため、予測値の方が低めのデータで表示されていますが、グラフからも精度の高さが立証されたことが分かります。
今回の技術を用いたEV導入支援ソリューションを、今後、さまざまな自治体や企業に展開していくことで、国内におけるEV転換を加速させていきたいと考えています。既に、大手リース会社数社に『FACTEV』を試験導入いただき、商用車をEVへ転換する際の検討材料としてご利用いただいてます。こうした実証を重ねて、2024年度の商用化を目指します。
さらには、EVデータをクラウド上で管理することで、実用性能、導入効果、バッテリー寿命などの予実管理への活用についても検討を進めています。さらに、フリート管理、カーシェアリング、エネルギー、保険などの各種サービス事業者へEV情報を提供するシステムを構築し、EVの幅広い活用への支援も積極的におこなっていきます。
DeNAは、今後も、EVの普及と運用を通じて、脱炭素やサーキュラー・エコノミーの実現に貢献していきます。
DeNAのSDGsの取り組みに関する記事:データサイエンスを活かしEVで脱炭素社会へ
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです