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高揚感のあるスタジアム体験を目指すサッカーJ3クラブのSC相模原。ホームゲームを開催する試合当日、スタジアムでどんな運営がおこなわれているか?会場設営からお客さまの案内、試合終了後の片付けまで全行程に欠かせないのがV-STAFFと呼ばれるボランティアスタッフさんだといいます。
そこで今回は、ボランティアスタッフさんたちにSC相模原でのボランティア活動の醍醐味、始めるきっかけ、そして、チームと共に二人三脚で歩んできた歴史について聞きました。
ーー試合日の活動内容と、ご自身の担当を教えてください。
影山和男さん(以下、影山さん):ホームスタジアムの相模原ギオンスタジアムは普段は市の競技場なので、試合当日になるとその競技場をSC相模原のホームスタジアムになるよう緑と黒に染める必要があります。そのため、試合開始の5時間前に集合して、選手が試合をできるようゴールの設置などを一緒に始めます。
僕は設立当初からボランティアのメンバーなので、チームと同じ15年目になります。ゴールの設置や撤去、試合中にゴールの網が切れたと審判から連絡がきたらハーフタイムに紐で縛りに行ったり、強風の日はスポンサー看板が倒れたりするのでそれを直したりなど、主にピッチ内の設営関連を担当しています。
齊藤 和子さん(以下、ワコさん):試合前を中心にお越しになったお客さまの案内などの役割もありますね。私は、まさにその総合案内を担当しています。私も始めて10年目なので影山さんと一緒で古参です。
沼尻 由起子さん(以下、ぴるこさん):対戦相手のサポーターの方にも楽しんでいただけるような「おもてなし」として、対戦相手へのWELCOMEイラストの掲示など、スタジアムを彩るのもボランティアがやります。私もワコさんと一緒に、主に総合案内を担当しています。他には、ガミティ(※1)のぬいぐるみに、その日の対戦相手の装飾を施す担当もしています。
※1:相模原市内にダチョウ牧場があることにちなみ、ダチョウをモチーフとしたSC相模原のオフィシャルマスコットキャラクター。
吉田 順一さん(以下、ポタリんさん):試合後はすべての装飾を片付け、設置したゴールの撤去、スタジアムの“原状復帰”もしています。僕はなんでもやりますが、特に入場を待つ行列の整理、観客の誘導などが主です。また、数年前から対戦相手チームのファン・サポーターに向けた「おもてなし」として、相手チームの選手の似顔絵などの作成と設置もおこなっています。
ーー影山さんとワコさんはボランティア歴も長いとのことでしたが、始めたきっかけは何だったのですか?
影山さん:もともとはサッカーが好きで、息子が学生の頃入っていたサッカーチームのサポートをしていました。その後、出身の横浜で別のJリーグチームのボランティアをしていたとき、「望月さん(※2)が新しくサッカーチームをつくるからそこでやらないか」と友人から声をかけられたのが始まりですね。
それでSC相模原のほうにきてみたら選手は5名、公園の芝生のようなところで練習していて、僕が頼まれることもマイクロバスの運転から練習のビデオ撮影など、まるでスタッフみたいな動き方だった(笑)。ただ、0からつくり上げるやりがいを感じられたのが、ここSC相模原だったわけです。
※2:望月 重良氏。元日本代表プロサッカー選手でSC相模原の創設者。
ワコさん:私はサポーターとしてスタジアムに通いつめている間にボランティアに誘われて始めた“ボラサポ”のはしりでした。当初、試合の前後にボランティアをして、試合はサポーターとして観戦していたんですが、J3に昇格する頃には、ボランティアとしてチームを助けたいという思いが勝り、今ではホームゲームはボランティアがメイン、アウェイゲームではサポーターという“二足のわらじ”をはいています。
ーーお二人ともサッカー好きが高じて、とのことですが、試合日に試合観戦に集中できないという状況において、続けてきた理由やモチベーションとは?
影山さん:当時の取締役など、チームをつくり上げていっていた人たちが同い年でね。その人たちを助けたいという思い、0からはじまったチームが徐々に成長していくさまを肌で感じでいけるのが嬉しいし、何より「仲間」と仲良くできるのが楽しい。だから続けられるんだよね。
ワコさん:平日働き、週末はボランティア。スタジアムには、観戦以外でも感じられる「非日常感」があるというか、この全く違う空間に身を置けることがリフレッシュになっています。それに、大人になると純粋に好きなモノで繋がれる仲間をつくるのって難しいじゃないですか。 でもここではそういう人間関係ができていくので本当に楽しいです。
ーー素敵な関係性が見えました!ワコさんとぴるこさんの担当されている総合案内について教えてください。
ぴるこ:落とし物を預かったり、チケット売り場へ案内したり、フードドライブ(※3)の対応もしたり。みなさん、何かあるととりあえずいらっしゃるのが総合案内なので、試合開始まではかなり忙しくしています。
※3:家庭等で余っている食品を持ち寄り、福祉団体フードバンクなどに寄付することで、食べ物を必要としている人に届ける活動のこと。
ワコさん:総合案内は、J3になってから始まりました。来場したサポーターから選手へのメッセージを書いていただく取り組みもしています。また、ゲート付近で困っているお客さまがいると案内されてくるので、チケットの使い方やQRコードの使い方など、全てのことに対応していくんです。
ーーぴるこさんとポタリんさんは、コロナ禍にボランティア活動を始めたとのことですが、きっかけなどを教えてください。
ぴるこさん:私はもともとブラインドサッカーのボランティアをしていて、東京オリンピックでもボランティア活動をしていました。ただコロナ禍になり、軒並みの大会は開催中止。ボランティアをどこかでやりたいと思っていたときに、地元のサッカーチームが募集していると聞いて始めました。
ポタリんさん:コロナ禍は無観客試合の期間が長く、サッカーに触れる機会が激減していたので、何か関わりを持ちたいという気持ちがあったことと、ボランティアスタッフが減り、チームが困っていると聞いて応募しました。一回やってみたら本当にチームが困っているぞ、と。好きなチームが困っているなら助けたい、という気持ちが大きくなったのももちろんありますが、何より楽しいんです。
ワコさん:あの時は状況的にボランティア募集もしづらい状況でした。無観客でも試合を開催するための準備は必要なわけで、それぞれがそれまで以上にいろいろなことを担いましたよね。
ポタリんさん:そうですね。僕も会場設営からボールパーソン(※4)、怪我した選手を運ぶ担架隊もやりましたよ。今は試合の前後はボランティア、試合中はサポーターです。観戦スタイルに合わせて、無理なくボランティア活動に参加できるのは嬉しいですね。
※4:フィールド外に出たサッカーボールの回収、選手へのボール供給を担当するスタッフ。
ーーお二人は装飾やおもてなし部分も担っているとのことですが詳しく教えてください。
ポタリんさん:相手チームのマスコットを描いたWELCOMEボード、相手のサポーターからリクエストを受け付けて、選手の似顔絵も描いて貼り出します。アウェイの試合会場に行ったときに手づくりのおもてなしを受けたのが嬉しかったことがきっかけになっています。
始めたのはJ2に昇格したタイミングで、今まで来たことない相手チームのサポーターがくるということで相手チームにも楽しんでもらいたいと思い、運営サイドに相談し、数人でおもてなしチームとして始めました。
描く選手のリクエストをいただいたときにあったコメントや小ネタも入れ込んだりしてね。掲示するイラストは事前にチームにお知らせするので、試合前は毎日イラストを描いています。好きだからこそできることですね。
ーーすごい。仕事みたいですね。がんばれるモチベーションとは一体?
ポタリんさん:リクエストしていただいた方が、そのイラストに選手からのサインももらったことをSNSを通して報告いただいたり、見た方が喜んでいる姿を目の当たりにしたりしたときはやっていてよかったと思います。
ちょっと前にJリーグの試合会場を紹介するYouTuberさんが相模原ギオンスタジアムに来ていたのですが、動画をみたら僕の似顔絵を「SC相模原といえば」という枕言葉で紹介してくれていました。これは本当に嬉しかった!
影山さん:昔はマッチデープログラムを配るだけだったけど、今はいろいろある。ぴるこさんのつくるミニガミティはいつの間にか選手入場のときに欠かせないものになってたね。
ぴるこさん:ホームゲームでは、ガミティに対戦相手のマスコットの“コスプレ”をつくって着せています。2021年の夏ごろ愛媛FC戦のときにガミティに相手チームの装飾を施したのが初めですね。関係者受付のところに置いていたら、それを見たガミティが喜んでくれて、続けるようになりました。
ーー今では試合の入場時にガミティがそのミニマスコット持って登場するようになったとか。
ぴるこさん:そうなの。試合中継では試合より入場シーンに注目しちゃってね。アウェイゲームのときも持っていってくれるんです。最初の頃は半ば勝手に置いていたのに(笑)。
2021年には、みんなが持っているミニガミティを持ち寄って、その年のすべてのコスチュームを着せて並べたのは圧巻でしたね。これをやるにあたって、マスコットについてとても詳しくなって、サッカーを見る楽しみ方が増えた気がしています。
ワコさん:毎試合、ひらめきがすごい!本当にかわいいのをつくってるよね。ハロウィンの時はすごかった。
ぴるこさん:今年のハロウィンは初めて事前にみんなで集まって大掛かりな準備をしました。普段から協力体制ができあがっているボランティアメンバーと、ワイワイとつくるのも楽しかったですね。見た人も喜んでくださって、つくり手も楽しいというハッピーなサイクルになっているんじゃないですかね。
ーー「楽しい」という気持ちがみなさんの原動力になっているのを感じました。試合日の運営を担当されているチームスタッフの鈴木 淳さんは、2012年から2014年までSC相模原でプレーされた経験もあると伺っています。そんな鈴木さんから見た、ボランティアのみなさんはいかがですか?
鈴木:僕は現役時代このチームでプレーし、その後引退、別チームを経て2023年2月からスタッフになりました。当時、選手も試合に出ない日は試合運営を手伝っていたので活動は結構よく知っていました。でも一緒に働くようになって、本当の凄さを知りました。
かゆいところに手が届くというか、チーム側の指示を待つのではなく「何をやるべきか」を自発的に感じとって動いてくださいます。最近では会場の設営などの他に、お話にもありましたが、ホスピタリティ的な要素も強く担っていただくようになり、よりスタジアムが生き生きとしていくのを感じています。
影山さん:「ボランティアだから」と担当範囲を決めずに自発的にこうしようと思えるのは、僕たちの強みかもしれないですね。初期のころからの「何でもやる」という精神が受け継がれているのかもしれない(笑)。
ポタリんさん:他のサッカーチームに参加することもありますが、そういう時にSC相模原のボランティアの特徴を感じますね。例えば、不測の事態が起こったときが顕著で、一度指示を待つことが多いと思いますが、ここだと「これができるかも」「これやっていいですか?」など次の行動へ繋がる対話が多い。
影山さん:楽しいという話を多くしてきたけど、そのかたわらで、それぞれが責任感を持ってボランティアを担当しているから、何かあったら自分が動こうという心構えがあるんですよね。
鈴木:ボランティアのみなさんには本当に頭が上がらないです。みなさんがいてこそ試合が開催されるということを選手にもっと伝えていき、感謝しあえる関係性になるようにしていきたいと思っています。
少しでもその感謝を還元したくて、選手からボランティアさんだけが見られる動画を配信し始めました。毎試合違う選手からのカジュアルなメッセージ動画へのアクセス二次元コードを、ボランティアのPASSに入れています。そういうことができるのも両者の信頼関係が成り立っているからだと思います。どうやって感謝の思いを伝えていくか手探りですが、これからも少しずつでも返していきたいと考えています。本当にチームにとって、いないと困る存在ですね。
ワコさん:そういう風に思ってくださるから、私たちもまだまだがんばれます!
ーーこれからボランティアスタッフに興味を持った方もいるかと思います。そんな方々にメッセージをお願いします。
影山さん:自分にとっては楽しいことが全て。時に大変なこともあるかもしれないけど、それも「楽しい」になる、ということですね。
ポタリんさん:体力は必要ですが、試合が成り立つまでを見られるので、スポーツビジネスに興味がある方にとっても知的好奇心が刺激される体験になると思います。
ぴるこさん:観戦スタイルは人それぞれだと思いますが、きっかけがあって試合日にボランティアをやることも楽しいと思ってもらえたら嬉しいですね。ただ楽しいだけではないのも現実です。試合の裏側が見られたりするのはとても興味深いことだと思います。だからこそ責任感もやはり必要になりますね。
ワコさん:そうですね。観戦するだけではなく、運営側として責任感の元で試合運営と関われるのはとても貴重な体験になると思います。試合前の活動であれば16才から参加していただけるので、ぜひ!という感じです。
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