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学校法人滋慶学園が2023年11月に「2023 JIKEI COM Game & e-Sports SHOW・若きクリエーター展」を開催。そこでは、eスポーツの主要タイトル『エーペックスレジェンズ』のU18大会を、学生自らが企画から運営まで担い、開催しました。
その裏では、DeNAが学園へ「事業としてeスポーツを成り立たせる」という視点で、実際のゲームイベントなどで培ったデータ分析から、ウェブのマーケティングまで、学生たちへ授業をおこないました。
今回、eスポーツの元プロプレイヤーで、現在名古屋デザイン&テクノロジー専門学校教務部副教務部長である濱田 隆輝(以下、濱田氏)と、DeNAソリューション事業本部ストラテジックマーケティング統括部イベントサービス部の櫻井 憲人(以下、櫻井)に、それぞれの立場から考えるeスポーツを取り巻く現状、今後の発展について聞きました。
ーーまず、今回おこなわれたイベントについて教えてください。
濱田氏:滋慶学園COMグループの全国30校が幕張メッセに集結し、未来のコンテンツを担う学生たちが、産学連携という実践教育の場で作り上げた作品・パフォーマンスを発表及び展示する場として、今年で4年目になる「2023 JIKEI COM Game & e-Sports SHOW」を開催いたしました。
本イベントのeスポーツブースにて、全国のe-Sports学科の学生が、日本初のエーペックスレジェンズのU18オフライン大会「JIKEI COM CUP U18大会」の企画から運営までをおこない、開催したのが今回のイベントです。
名古屋デザイン&テクノロジー専門学校では、eスポーツのプロプレイヤーを目指す、プロゲーマー専攻と、イベント制作や選手マネジメントなど、eスポーツ関連企業に就職を目指すイベント&マネジメント専攻に大きく2つに分かれています。今回のイベント開催では、出場プレイヤーはもちろん、日頃学んでいるイベント制作のアウトプットの場として最適だと思いました。
濱田氏:しかし、イベント自体の価値を見出すためのマーケティング、ウェブマーケティング含め、コンテンツのマーケティングが不足していることによって、オンラインでの視聴者数やインプレッションが伸びないという課題を抱えていたところ、DeNAさんに巡り合ったのです。
DeNAさんは、私がeスポーツのプロプレイヤーとして業界に携わっている頃から知っているような、大きいイベントを手掛けてらっしゃるというところで、eスポーツをビジネス視点でシビアに分析し熱心に取り組んでいる部分に感銘を受けました。そこで、我々のコンテンツやマーケティングについてお力添えをいただけないかで、というところが、今回のスタートでした。
櫻井:こちらとしても、eスポーツ業界を支える若手にそれが伝えられるなら、ぜひ!という気持ちでお受けしました。
濱田氏:eスポーツのウェブマーケティングは、従来のウェブマーケティングとは違う部分があるんですよね。今の若年層はウェブサイトを見にこないので、じゃあどうすればいいか、と。また、eスポーツイベントの実際のウェブマーケティングを参考に、より実務的にどんなことをすれば集客ができるのかを、私たちもDeNAの方々から学びたかった(笑)。
ーー実際にどんなことを講義したのですか?
櫻井:集客において、SNSやインフルエンサーを用いたマーケティングは実務シーンでもおこなわれることです。今回の授業のゴールは実際のイベントの開催ということで、私たちが実務としておこなっているマーケティングの一部だけでも学生さんに持ち帰ってもらいたいと、実践的なプログラムを組みました。
一方的な講義という形ではなく、先生と相談しながら学生自らが企画し、それを成し遂げるためにどんなプロセスがあるか、例えば分析や分析結果をどう活かすのか、予算の立て方などを含め、手を動かすのは学生というスタンスは崩さず全15回の講義を約半年かけておこないました。
ーー実務でやったことを授業で教える難しさみたいなことはありましたか?
櫻井:ゲームが好きで将来も関わりたいという気持ちが強い学生が多いので、理想も大きくなりますよね。実際に事業としてやるには、事業にまつわる予算や時期、いろいろな周辺状況を鑑みながらシビアな決断をする機会もあります。ゲームが好きという気持ちや理想を尊重しつつも、ビジネスとして学んでもらうための伝え方はかなり工夫しましたね。
濱田氏:今回、『エーペックスレジェンズ』というゲームタイトルの18歳以下の大会という、対象年齢をセグメントした大会にしました。その背景には、高校生世代で、すごく盛り上がっている『エーペックスレジェンズ』のオフライン大会がないこと。また、高校生にeスポーツ業界を知ってもらい、将来に向け次の学びの場として本学園に興味を持っていただけたら、eスポーツ業界の発展に繋がるのではないか、という思いもありました。
ーー年齢対象を絞ったことで難しかった部分はありますか?
濱田氏:集客ですね。全国の対象年齢である高校生、そして、『エーペックスレジェンズ』の大会に出たいという高校生たちに1人でも多くこの大会のことを伝えるにはどうしたらいいか。これが大きな課題でした。
櫻井:集客については、eスポーツだから特定の方法が必要、というわけではないので、一般的なマーケティング手法までやり方を広げ、社内でさまざまな分野のマーケティングを担当しているDeNAメンバーに講師として協力いただき、「インフルエンサーとは?」というところからレクチャーしました。
インフルエンサーの選定方法については、自主的に考えてもらうため、学生に対して最初からあえて正解を提示せず、まずは大まかなゴールを設定するべきだと考えました。そこで協力をお願いしたのが、eスポーツの担当でないものの、『エーペックスレジェンズ』が大好きだというDeNA社内のデータ分析の専門家です(笑)。
インフルエンサーさんの使っているSNS、フォローしている人数や年齢層などの統計データから、今回のイベントで影響力の高いと思われるインフルエンサーさんを一覧化し、今回のイベントにおける「DeNAが考えるゴール」をデータドリブンで導き出しました。
ーー学生のみなさんの答えはどうでした?
櫻井:正直、難しいだろうなと思ったんですけど、インフルエンサーさんに関しては学生さんからバチッとこちらの設定した「ゴール」に近いものが出てきて驚きました。それ以上に、こちらの期待値以上の詳しさで回答を出してきたので、教えるつもりがタジタジになったこともありましたね(笑)。
濱田氏:インフルエンサーさんの候補出しという部分では、eスポーツ業界が好きな学生が集まっていることもあり、いろいろなアイデアがでてきました。でも、ただお願いすれば出場、来場してくれるわけではないことを初めて学んでいました。理想と予算の現実も知ることになり、eスポーツをビジネスとして成り立たせる難しさに初めて直面しつつも、ある程度分析できたという手応えは、かなり自信に繋がったようです。
ーー現実を知った学生の反応はどうでした?
櫻井:学生自ら候補者を洗い出してみて、インフルエンサーさんの選定だったり実務的な業務を進めたので、社会仕組みを垣間見れたと思います。否定的な意見はなく、勉強になるという声が上がっていました。
ーー授業の後半はどんなことを?
櫻井:来場者のエンゲージメントを高めるというのをテーマにおこないました。そこで学生からの提案で、インフルエンサーさんにも来場いただきたいという話があがりました。お越しいただけるとなれば、当然ファンと近い距離にいることになります。なので、一緒に写真撮ったりコミュニケーションできたりするという部分を売りにしたいと、学生主体でフォトスポット企画を立ち上げました。
ーー実際やってみての学生の反応はいかがでした?
櫻井:イベントは利益がないと続かないこと、理想と現実の間でどう折り合いをつけて、お客さまに喜んでいただくか。フォトスポットでいえば、大判の印刷はどう準備すればいいのか、データの確認は誰にどのようにしてもらえばいいのか、そこからどんな工夫ができるか……今までとは違う視点でeスポーツを見るきっかけになったのではないかと感じますし、実際に学生さんからもそういった感想をいただいたりしました。
濱田氏:eスポーツが好き、ゲームが好き、それを実学として学び、好きを仕事にするという夢を持って入学してきた学生が、実際に予算や、集客などの様々な課題に直面し、0から大きいイベントを作る難しさを実感していたと思います。
ですが、産学連携教育として大会マーケティングの授業を実施していただいたことで、実際の仕事のプロセスや大会にどのように広告的価値を見出していくのかなど、自分たちで問題を解決していく術を身に付けたと感じます。これからも多くの人材を産業界へ輩出するためにも、こういった職業人教育を通じ、社会に貢献するという我々のミッションを、今後も産学連携教育に力を入れていく所存です。
自分たちが0からつくったイベントが、ここまで盛り上がったという達成感は、学生にとってとても良い成長の機会になったと感じます。今回のイベントが卒業年度に当たる学生もいれば、1年生、2年生で参加している人もいます。今回の学びを活かし、最終的には即戦力として業界で活躍する人になってくれたら嬉しいですね。
ーー濱田さんは元々プレイヤーで引退後、教育現場に入ったとのことですが、昨今eスポーツを取り巻く環境についてどのように見ていらっしゃいますか。
濱田氏:自身がプレイしていたのは約6年前までです。当時はまだeスポーツ業界は大きくなく、プロプレイヤーといいつつも、他事業との両立が必要でした。私が世界大会におこなっていた時に同じチームメンバーだった、当時17歳のメンバーがまだ活躍しているのはすごいですね。プロ野球選手やプロテニスプレーヤーというわけにはいかないですが、徐々によくなってきている認識です。
櫻井:私は、eスポーツを事業として関わる最初のタイミングだったので、若者中心にすごく盛り上がってきている業界なんだというイメージくらいでしたが、プレイヤーとしての課題感については興味深いですね。
濱田氏:eスポーツ業界は盛り上がっているのですが、昔と比べて日本のプロプレイヤーは減っているんですよ。マネタイズに苦戦しているので、プロプレイヤーを抱えるのが難しいという現状があります。世界規模と国内の規模の差があいているので、プロ選手を雇用する為の資金をマネタイズできているチームがまだ少ないように感じます。プロチームを設立する企業が1社でも多く出れば、1社につきプロプレイヤーは増えていくのですが……。
プロプレイヤーになろうと思うと、大会を開くイベント事業者がいて、そこに協賛する企業さんがいて、初めて活躍の場というのが生まれる。このトライアングルが、埋まらない限り、タイトルとしては大成しないんです。
プロプレイヤーを増やすためには安定したビジネスシーンをつくることは欠かせませんし、そういう土壌をつくれるような知見を、学校を通し若い世代に教えていき、それが日本のeスポーツ業界の規模拡大につながることを願っています。
櫻井:テレビ業界の方々が配信の世界に入ってきたころで、競合するようにレベルの高い演出や企画が世間から求められるようになっていると思います。単価も当然上がってくるので、イベントの集客をしっかりおこない、収支が成り立つようにしないと、続けていくこと自体がとても難しくなってきていると感じます。
要求水準が上がってきているので、伝え方についても観客やファンの想像と実際のイベントの規模感に嫌なギャップが生まれないよう心掛け、最善を尽くす必要があります。今回の授業を通して学生のみなさんには気づいてもらえた部分だと思うのですが、「ただゲームで遊ぶのを見せる」という感覚だけでは事業として成り立たないんですよね。
今後の未来でいうと、観客やファンが増えていくことは予想できるので、求められる期待にこたえられるよう、いいモノをつくるということ。そこに制作側として責任を持って向き合い続ける、それが業界の発展に繋がるのではないかと考えています。
濱田氏:テクノロジー分野が成長するとともに今、LAやEUのeスポーツが盛り上がっていています。アジア圏では、昔は韓国が筆頭でしたが、プレイヤー人口としては中国の規模感はすごい。また、近年ではサウジアラビアもeスポーツの街をつくろうとしているほど、力をいれています。eスポーツが事業として成り立っていて、強いプレイヤーだと年収5億円の人もいるくらいです。そこと比べると、日本のeスポーツは少し置いていかれているという印象があります。
日本が以前から取り入れているのですが、eスポーツチームがアパレルなどを展開するなど、エコシステムをつくるというのは一つの打開策だと思っています。活躍している選手たちの魅力をファンや観客が感じることで、彼らの着るアパレルや身に着けるグッズの価値も高めるようなブランディングが必要になると思います。
櫻井:ゲームだけ強ければいいというのではなく、「どう魅せるか」は本当に大事になりますよね。SNSの使い方やゲーム配信の演出、メディアを通して伝わる本人の人間力も鍛える、総合プロデュース力みたいなものが必要になってきているわけです。大変ですね(笑)。
濱田氏:そうなんです。選手兼タレントに近い印象かな、と。なので、学校のほうでもプロプレイヤーに関して、フィジカルトレーニング、プレゼンやコミュニケーション能力を高めるため自己プロデュースを極める授業を組んだりもしています。
eスポーツを取り巻く環境は、私が知る6年の間でもとても大きな変化をしていますし、また今後も刻々と情勢も変わってくることは予想できます。市場の爆発的な成長は、どうしても外的要因に左右されることがあるので、波が来た時に乗れるよう、私は育成の現場からeスポーツの発展に関わっていきたいです。
櫻井:私たちは、観客やファンのニーズリサーチし、eスポーツの現場をつなげる役割をしていきたいです。eスポーツのイベントを開くだけではなく脇の展開が重要という話もありましたが、主軸はいかに大会をドラマティックに見せるか、どうやってカメラで撮るべきか、お客さまのニーズを読み取ってそれらを満たす、つまり、Delightをどう届けるかということを考えていきたいです。
また、データ分析やマーケティングの知見を活かし、潜在的なお客さまがどこにいるのかを予測し、業界の発展に寄与しつつ、継続可能な事業として成り立つように今後も邁進していきたいと思います。
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