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認知症は、さまざまな脳の病気により脳の神経細胞の働きが徐々に衰え、記憶や判断力などの認知機能が低下し、社会生活に支障をきたす状態です。そして、認知症を発症する前の段階を、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment。以後、MCI※1)といいます。
日本では、2022年時点で65歳以上の約3.6人に1人が認知症又はその予備軍だと推計され、認知症1000万人時代に突入したといわれています※2。
政府も本格的に動き始め、2024年1月には「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができること」を目的とした認知症基本法を施行。9月を「認知症月間」と定め、認知症についての関心と理解を深める行事が、全国各地でおこなわれています※3。
そんななか、2021年よりDeNAのグループ会社となった日本テクトシステムズ株式会社(以下、日本テクトシステムズ)では、認知症の人も穏やかに過ごしていける社会を目指し、さまざまなサービスを展開してきました。
20年以上に渡って高齢者や認知症の医療発展に従事してきた日本テクトシステムズの思いと、生成AIを活用した最新の取り組みを、副社長を務める生田目 知之が解説します。
※1 MCI=Mild Cognitive Impairment。正常と認知症の中間ともいえる状態のことだが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない。MCIの人のうち年間で10%から15%が認知症に移行するとされている(出典:政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」)
※2 2022年の認知症の高齢者数は約443万人、MCI(軽度認知障害)の高齢者数は約559万と推計され、合計で約1,000万人を超え、65歳以上の高齢者の約3.6人に1人が認知症又はその予備軍と言われております(出典:経済産業省「認知症政策」)
※3出典:厚生労働省「認知症施策」
認知症は有病率が高い病気であるにもかかわらず、早期診断ができる体制が不十分であるのが実情です。「認知症は怖い」「発症したことを知りたくない」といった心理が働いたり、自覚症状が分かりにくかったりする点が、自発的な早期診断を遅らせる要因とされています。
また、認知症の診断を受けるためには、かかりつけ医や地域包括支援センター(高齢者に関する市区町村の総合相談窓口)への相談や指定の専門医等を受診し、認知機能検査やMRI検査等を要するため、アクセス面の不便さやフローの面倒さといったハードルもあります。
根本的な治療法のない「不治の病」とされてきた認知症ですが、少しずつ希望が見えてきています。認知症の進行を抑える新薬「レカネマブ」が、国内でも2023年に厚生労働省から承認されました※1。
レカネマブは、認知症を引き起こす最も多い原因であるアルツハイマー病の原因物質を取り除き、進行を遅らせることが期待されている薬です。このレカネマブが有効とされる対象がMCIの人やアルツハイマー病の初期段階の人であるため、早期診断が重要です。
また、MCIのタイプによっては生活習慣病を改善するための健康管理によって認知機能低下の進行が抑制されることが、研究で分かってきました※2,※3。MCIの段階で適切な対応をおこなえば、認知症への移行を遅らせたり、場合によっては健常な状態に戻る可能性があるとも言われています。
※1 出典:厚生労働省「レカネマブ(レケンビⓇ点滴静注)について」
※2 喫煙率の全体的な低下、中年期~高齢早期の高血圧や糖尿病、脂質異常などの生活習慣病管理の改善、健康に関する情報や教育の普及による健康意識の変化などにより、認知機能低下の進行が抑制され、認知症の有病率が低下した可能性(出典:厚生労働省「2012年の厚生労働省の報告に比べ、2022年の認知症の有病率が低値であった理由の考察」)
※3 年齢、性別、生活習慣病(糖尿病)の有病率が認知症の有病率に影響することがわかった(出典:厚生労働省「『日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究』(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値」)
日本テクトシステムズは、20年以上に渡って高齢者や認知症の医療発展に従事してきました。認知症の人も穏やかに過ごしてゆける社会を目指し、認知機能を判別する「ONSEI」や高齢運転者の認知検査システム「MENKYO」などのサービスを提供しています。
認知機能みまもりAI「ONSEI」は、医療機関で受診する前段階として自宅からスマホで簡単に認知症の早期発見を目指した認知機能チェックサービスです。個人契約の他に、自治体や保険会社付帯サービス、シルバー人材センター※1などで導入いただいています。
自治体での活用例として、江東区が今年の8月から始めた「物忘れ検診事業」でONSEIと認知機能以外にも健康をみまもる機能を搭載した「ONSEIプラス」を採用いただきました※2。江東区民が誰でもセルフチェックとして利用できるよう、ホームページやチラシ、広報誌でONSEIとONSEIプラスが周知されています。また、区内21か所の地域包括支援センターに設置されたタブレットで「ONSEI」を利用できます。
※1 シルバー人材センターとは、地域の発展に寄与することを目的として運営している公共的・公益的な団体
※2 出典:江東区「認知機能AIチェックツール「ONSEI」の配信を開始」
一方、高齢運転者の認知機能検査システム「MENKYO」は、75歳以上の高齢者が免許を更新する際に必要な認知機能検査を電子化したサービスです。検査結果の自動採点機能などにより、従来のペーパーテストと比べて検査員の負担が大幅に軽減できます。自動車学校や、全国で約7割の都道府県警察で導入されています。
日本テクトシステムズでは、生成AIを活用した認知機能の維持・改善に関する情報提供サービス「KENNOライフアシスト(仮称)」を開発しました。このβ版が大型アップデート/デザインリニューアルされた株式会社アルムの「MySOS(マイエスオーエス)」に搭載されています。
「KENNOライフアシスト(仮称)」では、認知症予防に関する研究(※1,※2)を基に、生成AIを活用した認知機能の維持・改善に役立つとされる情報アドバイスを提供。日々の暮らしに簡単に取り入れられることで、認知機能の低下を抑えたり、健康な生活をサポートしたりすることを目指します。
また、日本テクトシステムズは「KENNOライフアシスト(仮称)」を自治体と連携していくことを検討しています。自治体に特化した情報を追加してAIに学習させることなどを通じて、地域のニーズに応じたサービスを提供したいと考えています。このアプローチにより、地域全体の健康増進と医療費削減を目指します。
※1 出典:厚生労働省「自治体における認知症の『予防』に資する取り組み例集」
※2:出典:厚生労働省「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」
予防的な運動や健康法などの情報はたくさんありますが、指導だけで心を動かすのは難しいものです。私たちは、技術力とエンターテインメントのかけ算によって、楽しみながら自然と認知症予防に繋がるサービスの実現に励んでいます。こうした挑戦を通して、すべての人が安心して齢を重ねられる環境、認知症の方も穏やかに過ごしてゆける社会を目指します。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです