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新時代のウェルビーイング(Well-being)体験の実現を目指し、メディカル・ヘルスケア領域におけるDX化を推進することを掲げた「株式会社ウェルコンパス(以下、ウェルコンパス)」が2022年3月にDeNAとリゾートトラスト株式会社(以下、リゾートトラスト)の合弁会社として設立されました。
第一歩として、会員の医療・健康情報の生涯データ基盤(Personal Health Record。通称PHR)の構築や医療データの一元化、検診データの経年閲覧システムの開発をおこない、医療機関の負担軽減や検診体験の向上に貢献すると共に、蓄積データを活用した革新的なサービスの実現を目指してます。
ウェルコンパスが切り拓く、新時代のウェルビーイング体験とはどんなものか。DeNAのウェルビーイング事業部 事業部長であり、ウェルコンパスの取締役も務める大友 京に聞きました。
ーーIT企業であるDeNAが会員制リゾートホテルを経営するリゾートトラストとタッグを組み、合弁会社を設立した背景をお聞かせください
大友:リゾートトラストは売上高で日本一のシェアを誇る会員制リゾートホテルの経営を主軸にされている企業です。「ご一緒します、いい人生」というビジョンを掲げ、会員さまの人生に伴奏した幅広いサービスを展開されているなか、30年前からメディカル事業にも参入されました。
リアルアセットの素晴らしさや営業力、ホスピタリティの高さを強みとされていて、会員さまとも近い距離感で信頼関係を築かれています。
一方、DeNAは2014年からヘルスケア事業に参入して以来、健康寿命の延伸と医療費の適正化に向け、AIなどのIT技術を活用した健康増進を促すサービスの提供やヘルスビッグデータの利活用などをおこなっています。
また、メディカル業界が抱える慢性的な人手不足という社会課題にもさまざまなアプローチで対峙してきました。医療施設は労働集約型なため生産性が上がりにくく、人手不足がサービスの品質にも影響してきてしまいます。DeNAのデータ分析などのノウハウを活かし、医療DXを推進させることで医療従事者の負担を軽減し、副次的に医療機関の増収増益に寄与しています。
ーー両社が組むことで、どういった相乗効果が得られると考えられますか?
大友:ウェルコンパスはリゾートトラストグループの医療機関に向けたサービスを提供しているため、エンドユーザーはリゾートトラストの会員さまとそのご家族が中心です。その会員さまの多くは、「ヘルスケア=長く元気でいるために自分の健康をコントロールすること」という概念をお持ちのため、我々の研究を含め、医療発展に繋がる研究に非常に前向きに協力してくださる方が多くいらっしゃいます。
ヘルスケアに意識高く取り組まれている会員さまと近い距離感でニーズや課題をヒアリングしながら、IT企業が得意とするスピーディーなPDCAサイクルで検証を重ねていける。この環境だからこそ、イノベーションを起こせると感じています。
そのために、まずは医療DXを推進し、蓄積したデータを活かして、一人ひとりの健康情報やニーズに寄り添ったカスタマイズ型のサービスなど、革新的なサービスを展開していきたいと思っています。その一例として取り組み始めたのが次世代型健診サービスの取り組みです。
ーー次世代型健診サービスについて詳しく教えてください
大友:まず、次世代型健診サービスをおこなえる医療施設についてお話しさせてください。
リゾートトラストグループの株式会社ハイメディック(以下、ハイメディック)が中心となり、全国に複数の医療施設を運営しています。そこでは健康診断や人間ドック、がん治療などの高度な医療サービスを提供しています。
ハイメディックの医療施設では、日本で初めてPET※による画像診断を取り入れた検診を提供するなど、約30年にわたって予防医療の新たな形を追求し続けてきました。がんをはじめとする疾病の早期発見だけでなく、日常的な健康相談にも力を入れ、会員さまの人生に365日伴走する医療機関としてご支持いただいています。
そして、30年の歴史の集大成といえる「ハイメディック大阪中之島コース」がこの夏より開業しました。「人生100年時代にふさわしいウェルビーイング」をビジョンに掲げ、病気の早期発見よりさらに前段階での健康増進や将来の介護リスク軽減といった新しい価値の創出に挑戦しています。
例えば、将来の介護リスク軽減においては、介護の原因となる疾患を中心に「認知症予防」「ホルモンマネジメント」「生活習慣改善」「フレイル予防」の4本柱で伴走型のカスタム制のプログラムを用意しています。
※PETとは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略で、がん細胞が正常細胞に比べて多くのブドウ糖を取り込む性質を利用した、臓器を特定せず全身を一度に診る事ができる検査。世界に先駆けてハイメディックが初めてPETを検診に本格的に導入した。
ーーウェルコンパスはどういったかたちで次世代型健診サービスに関わっているのでしょうか?
大友:日本の医療現場では、情報管理が煩雑であることから、DX化が困難とされてきました。病院内で取り扱う情報は、さまざまな販売元が提供しているシステムで別々にデータ管理されているうえに、紙の情報をデータに落とし込む工程も加わるため、データの一元化は難易度の高い開発となります。
ウェルコンパスは、ハイメディックなどの医療施設ごとに扱っている医療情報を一元化させ、健診業務の効率化とサービス向上を図っています。
2024年3月には、会員さまが自身の健康・医療情報を管理し、家族や医師と共有することができる会員基盤(PHRシステム)を開発しました。これにより、施設ごとに管理されていた検診結果や問診票などの情報を集約させ、一人ひとりのニーズに合わせたメディカル・ヘルスケア関連のサービスを提供できるようになりました。
また、「ハイメディック大阪中之島コース」向けに、医師が受診患者へ検査結果をフィードバックするときに使用する、検診データの経年閲覧システムを開発しました。検査結果をビジュアライズし、過去データとの差分を色付けするなど経年経過を分かりやすいようにビジュアライズしてアウトプットするシステムです。結果から想定されるリスクを自動生成したり、こうした情報をプリントアウトしてお客さまへお渡ししたりすることもできます。
経年閲覧システムは先述の会員基盤とも連動しているため、一人ひとりの医療・健康情報に寄り添った説明ができるだけでなく、受診後もパーソナライズしたさまざまなサービス提供に応用できます。
ーー次世代型健診サービスを導入しての影響について教えてください
大友:経年閲覧システムによって、施設ごとに検診データを管理していたときは入力項目に差分のあった検診結果や問診情報に対し、入力フォーマットを整え情報の均一化と集約を図りました。
実際にこのフォーマットを使用するようになった医師からは、医師の専門分野に依存せず、検診結果について総合的に説明しやすくなったと評価いただいています。
こういったDX化はただ業務を効率化するだけでなく、ハイメディックの医師が大切にしている会員さまとのコミュニケーションに比重をかけられるようになります。人間とシステムのできることの住み分けが進むことで、受診体験の価値向上へつながると考えていますし、医師に限らず看護師や医療スタッフの業務時間が大幅に軽減できていることから、医師の働き方改革にも寄与しているといえます。
ーーウェルコンパスが目指す新時代のウェルビーイングとは?
大友:自分の人生を選択するように、自分の健康を能動的に選択できる社会を目指しています。
日本は他の先進国と比べて「メディカル・ヘルスケア」に対する認識がまだまだ保守的で、病気になってから医療サービスを受けるのが一般的です。メディカル・ヘルスケア関連のサービスは企業向けのものが多く、いざ自分が健康的な人生を選択したいと思っても、その手段が確立されているとは言えません。
ウェルコンパスは、医療DXサービスの提供に閉じるつもりはなく、メディカル・ヘルスケア領域において革新的なサービスのビジネスモデルをつくるプラットフォーム的な役割を担いたいと思っています。そして、医療の発展に繋げていくための挑戦を続けていきます。